ライフプラン別住宅ローンシミュレーション

ケース①:子どもが生まれたばかりの30代夫婦

初めての子どもが生まれたばかりのAさん(31歳)。住んでいるアパートが手狭になってきたこともあり、マイホームの購入を検討し始めました。

A家の家族構成
Aさん(31歳)
会社員
妻(29歳)
出産を機に退職したため、現在は専業主婦。子育てが落ち着いてきたら、パートで働くつもり。
長男(0歳)
A家の現状と今後の予定
Aさんの収入
  • 現在年収500万円(手取り年収:400万円)。今後、年率2%で上昇、50歳~59歳は横ばい。
  • 退職金(60歳時手取り予定額:1,000万円)
  • 65歳になるまで再雇用制度を利用して働く予定(手取り予想年収:300万円)
  • 年金は65歳から210万円受給予定。
支出
  • 生活費(住居費、教育費除く)年額276万円。今後、年率1%で上昇し、長男大学卒業後とAさん再雇用退職後に10%減。
  • 現在の住居費(家賃)年額120万円。
  • 教育費の総額1,964万円(長男のこども園は私立、小~高校は公立、大学は私立文系自宅外通学で資金を準備するつもり。)
  • 9年ごとに車の買い替えを予定。
現在の貯蓄額
  • 300万円
家族の現状
  • 妻:現在は専業主婦で収入はない。
    子どもが6歳くらいになったら年収60万円、10歳くらいになったら年収100万円くらいでパート収入を得るつもり。年金収入は65歳から77万円受給予定。
  • 長男:3歳からこども園に入園予定。
住宅購入への希望
  • 来年、住宅購入を希望。
  • 購入予算は諸経費込みで3,300万円くらいと思っている。
  • 実家の親から300万円の住宅資金贈与を受け、3,000万円の住宅ローンを組む予定。

1.A家のライフプランとお金の流れ

まずは、A家の今後のライフプランと、お金の流れを確認してみましょう。

妻は、将来的にパートをはじめることを検討中なので、A家の収入と、支出(住居費を除く)について、パート収入がある場合と、専業主婦を続けた場合でグラフをみてみます。

1)妻のパート収入がある場合

図表1 A家の収入と支出(Aさん85歳まで・住居費を除く)パート収入がある場合

A家の収入と支出(Aさん85歳まで・住居費を除く)パート収入がある場合
  • Aさん在職中は、ほぼ、収入の範囲内で支出をまかなえますが、車の買い替えの年は支出が収入を上回ります。
  • 長男の大学在学中は、収入が支出をわずかに上回る程度となります。
  • 年金生活に入ると、支出が収入を上回ります。

2)妻が専業主婦を続けた場合

図表2 A家の収入と支出(Aさん85歳まで・住居費を除く)専業主婦の場合

A家の収入と支出(Aさん85歳まで・住居費を除く)専業主婦の場合
  • Aさん在職中、車を買い替えたり、長男が大学進学したりと臨時支出があると、たびたび支出が収入を上回ります。
  • 定年退職後、支出が収入を上回ります。

いずれのケースでも、長男の大学在学中が支出のピーク。教育費支出が終わると、在職中は収入が支出を上回り、金融資産を増やすことができます。住宅購入については、教育資金や老後資金に影響を与えない範囲内で、資金計画を立てましょう。

2.住居費にまわせる金額を、生涯収入・生涯支出からチェックする

次に、住宅購入資金を含む「住居費」にまわせる金額を今後(Aさんが85歳まで)の収入・支出額から試算してみましょう。

なお、今後の収入から支払う「住居費」は、住宅購入資金だけではないことに注意しましょう。住宅購入するまでの賃貸住宅の家賃、住宅購入に係わる住宅ローン返済金、住宅購入の諸費用はもちろん、住宅を保有すると固定資産税などの諸経費や修繕費用などもかかってきます。また、Aさんが85歳までの期間で考えると、住宅保有期間は50年以上に及ぶので、リフォーム工事も想定しておいたほうがよいでしょう。

1)妻にパート収入がある場合

図表3 A家の生涯収入と生涯支出(パート収入を含む・Aさん85歳まで)

A家の生涯収入と生涯支出(Aさん85歳まで)

今後のAさんの給与や退職金、妻のパート収入、夫婦の公的年金など、さらに親からの贈与された住宅購入資金などの収入額の合計は2億6,329万円になります。支出の合計額(住居費を除く)は2億705万円で、その差額は5,624万円。これが、住居費にまわせる金額ということになります。

2)妻が専業主婦を続けた場合

図表4 A家の生涯収入と生涯支出(専業主婦の場合・Aさん85歳まで)

A家の生涯収入と生涯支出(Aさん85歳まで)

一方、妻の収入がなかった場合の生涯収入は2億3,389万円。住居費にまわせる差額は2,684万円と、妻のパート収入がある場合に比べると、2,940万円少なくなります。

3.住宅資金計画を立ててみる

住居費に回せる金額がわかったところで、住宅ローン返済に利用できる金額を計算し、住宅ローンプランを確認してみましょう。住宅購入時期は1年後と仮定します。

1)使い道の決まっている「住居費」を洗い出す

まずは、住宅購入まで住む賃貸アパートの家賃、購入後の固定資産税などの諸経費やリフォーム費用など、住宅ローン返済に利用する分を除く、「住居費」を洗い出してみましょう。

住宅購入後の諸経費は、マンションか戸建てか、などによっても違ってきますが、ここでは仮に年間20万円として試算します。リフォーム費用は仮に500万円とします。

Aさんの住宅ローン以外の今後の住居費

賃貸アパートの家賃など(1年分) 120万円
住宅購入後の諸経費(固定資産税・修繕費など) 年間20万円×54年分=1,080万円
リフォーム費用 500万円
合計 1,700万円

上記より、住宅ローン返済にまわせる金額は、

  • 妻のパート収入がある場合は 5,624万円-1,700万円=3,924万円 となります。
  • 妻のパート収入がない場合は 2,684万円-1,700万円=984万円 となります。

Aさんは住宅購入予算を3,300万円としています。妻のパート収入がある場合は、利息を含む住宅ローン返済にまわせる金額が3,924万円あるので、住宅購入は十分可能でしょう。しかし、妻のパート収入がない(専業主婦を続けた)場合、利息を含む住宅ローン返済にまわせる金額が984万円しかなく、思い通りの物件購入は難しいと考えられます。妻が専業主婦を続ける事になった場合は、支出内容を見直して家計の黒字を増やしたり、希望する物件価格を大幅に引き下げたりしなければ、住宅購入は難しいでしょう。

2)返済総額と毎月返済額を試算し、ローン計画を確認する

諸経費を含めた住宅購入予算3,300万円を実現するため、Aさんの妻がパート収入を得ることを前提に、自己資金300万円を差し引いた3,000万円を借入金額としてローンプランを試算してみましょう。

Aさんはまだ31歳と若いので、返済期間は35年と仮定します。また金利は、35年間の固定金利と設定して、【フラット35】の2021年6月金利(返済期間21~35年の場合の最も多い金利)である1.35%と、金利上昇を考えて1.5%で試算してみました。

図表5 住宅ローンの返済総額・毎月返済額(返済期間35年・借入金額3,000万円)

  金利1.35% 金利1.5%
返済総額 37,659,981円 38,579,007円
毎月返済額 89,666円 91,855円

※イー・ローン返済額シミュレーションにて筆者試算

このように、借入金額3,000万円であれば、金利1.5%でも返済総額は3,924万円以下、購入時の税込年収に占める返済負担率は22%程度、手取り年収に占める割合は27%程度で収まることがわかります。金利1.5%の場合の毎月返済額は91,855円であり、現在の家賃などが月額10万円なので、毎月の返済額は「家賃並み」の負担となります。住宅ローン返済のほかにも固定資産税などの諸費用の支払いも必要になりますが、今後、Aさんの妻がパート収入を得るようになれば、カバーできるでしょう。想定した予算内の物件が見つかれば、住宅購入は実行できそうです。

以上により、金利1.35%で借り入れできるとすると、住宅購入の資金計画は下記のようになります。

自己資金 300万円
住宅ローン 借入金額3,000万円 返済期間35年 金利1.35%
毎月返済額89,666円(年額1,075,992円)
住宅保有時の諸費用 年額20万円

4.A家のライフプランとお金の流れ(住宅購入後・妻がパート収入を得ている場合)を確認しよう

最後に、1年後に住宅を購入した場合のお金の流れを確認してみましょう。

図表6 A家の収入・支出・金融資産残高(住宅購入後・Aさん85歳まで)

A家の収入・支出・金融資産残高(住宅購入後・Aさん85歳まで)

図表6のグラフでわかるように、300万円の自己資金・3,000万円の住宅ローンによって住宅購入した場合でも、年間収支は赤字になる年があるものの、金融資産残高は黒字で推移します(85歳時の金融資産残高799万円)。予算どおりの住宅購入であれば、教育資金や老後資金なども、無理なく準備できそうです。

5. 若い世代の住宅資金計画のポイント

1)今後の子育て・教育資金負担も考慮して、ローン計画は慎重に

子どもが小さい、20代、30代の若い夫婦が住宅購入する場合には、まだ収入や金融資産残高が少ない場合が多いので、住宅購入資金も、ローンに頼る割合が多くなりがちです。教育資金の負担もこれから始まる時期にあたり、また、第二子、第三子が生まれれば、その分教育費負担は重くなります。子どもが小さい間は配偶者が働くことが難しい場合も多いので、住宅ローンの借入金額は、家族の予定や教育プランを考えて、慎重に決めたほうがよいでしょう。

2)返済期間を長くすることで、毎月の返済負担軽減も可能

住宅ローンは一般的に完済時の年齢制限があるため、購入のタイミングによっては希望する返済期間で借り入れできないこともあります。そのため、若い世代の住宅購入におけるメリットは、住宅ローンの返済期間を長く取れることといえます。同じ金利・借入金額であれば、返済期間が長いほど、毎月返済額は少なくなるので、返済期間を長くして、若く、収入が少ない間の返済負担を軽減することができます。返済が定年後まで続くことが心配であれば、家計に余裕が出てきてから、毎月返済額を増やしたり、繰上げ返済をしたりして、返済期間を短縮する方法を選ぶこともできるでしょう。

私が書きました

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※本コンテンツは、モデルケースから収入や支出を想定し、シミュレーションしています。

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