第2回
レンタカー屋でハマーH2を借りてみた(後編)
漢(おとこ)の夢を、いま叶える――。
漢なら、死ぬ前に一度は乗ってみたい乗り物が、海賊船と高級外車である(オレ調べ)。
もっとも、なかなかルフィやジャック・スパロウは誘いに来てくれないし、高級外車はウン百万円~ウン千万円もするものだ。
「漢の夢は墓場まで持っていくしかないのか…」
なんてあきらめかけていた私のところに、「ちょい上レンタカー体験しませんか?」との朗報が入った。というわけで、東京は江戸川区・葛西にある高級レンタカー店『DIREX』に出向き、米GM社最強のSUV「ハマーH2」のハンドルを握り、ドライブ体験してみよう、といううれしい企画がスタートしたのだった。今回はその後編。
「コレがハマーだ!(2回目)」
ドドン! しつこいようですがコレがハマーH2。330馬力、6000CC、全長約5m、全高約2m。タイヤとホイールなんてこのイカつさです。一緒に写った私の顔もワイルドかつ悪だくみしているように見えるほどです。ちなみにコレが1日25,900円で借りられるのです。
右側の助手席には『DIREX』を運営するフェダージャパンの営業マン・野村さん、後部座席には編集者Hという野郎3人で、さっそく“ちょい上”ドライブへ出発!
コースを紹介しておこう。ハマーをレンタルした『DIREX』をスタート地点に最初に目指すのは葛西臨海公園。水族館や大観覧車、広々とした公園などがあるレジャースポットである。その後、ハマーの走りを堪能できそうな湾岸道路を軽く流し、再び同店に戻ってくるルートだ。ちょい乗りでごめん。
まずは『DIREX』の車庫を出て、左折。アクセルをぐぐいと踏み、同時に誇らしげに中央に「H2」と書かれたハンドルをずずいと左に切る。
と……おおっ、動いた。走った。左折した(当たり前)。
「公道に出てみました」
クルマにのってここまでドキドキしたのは久しぶり。20年前に味わったはじめての路上教習を思い出した次第であります。
それにしても、なんという緊張感だろう。左ハンドルがまず怖い。ワイド過ぎる車幅感覚もまた怖い。イカついクルマに乗っているくせに、実におっかなびっくりなドライブのはじまりなのだった。
ところが、だ。路上に出て少し走らせてみると、なんとか緊張もほぐれてきた。というよりも、このハマー、コワ面のくせに、少しなれると実に乗りやすい。
まず加速の良さと安定性が良い。アクセルを踏むと心地よくエンジンがまわり、巨大な体躯は驚くほどスムーズに前進する。
そして何より視界の高さだ。約2mの車高から望む眺めは、路線バスや2トントラックと大差なし。なんだか自分がエラくなったような気すらしてくる。強くなった気すらしてくる。セレブになった気すらしてくる。今なら嫁さんに「小遣いを月3万円にあげてください!」と頼めそうな気すらしてくる(メールでなら)。
「なんかフロリダあたりに見えてきます」
コクピットからの眺めはこんな感じです。風を切るハマーの葛西臨海公園に向かう道路に並び立つ椰子の木のせいか、アメリカの西海岸を走っているような錯覚に陥ります。
いずれにしても、操作性は思ったより高く、10分ほど走って、JR葛西臨海公園駅の駅前ロータリーに入った頃には、周囲の景色を見渡せる余裕が出てきた(ようやく)。
すると……ビンビン感じるぜ。駅前にいる多くの人たちが、みなオレを見ていることを。その視線はイカついハマーを見て「どんなイカつい漢が乗っているんだろう!!」と注目している。遊んでいる小さな子供なんて、こちらを見て手を振ってくる。普段はわが子にすら相手にされないのに、だ。
それでいて、信号で隣に停まった2トントラックのあんちゃんは、こちらと目線をあわせようとしない。ハマーのイカつさが怖くて目をそらしたに違いない。普段は中学生にすらメンチ切られる私なのに、だ。
気持ちよさから思わずアクセルの踏み込みも強くなる。葛西臨海公園を後にして、湾岸道路へ。ここからぐっとスピードを上げてみた。
うぉ、ぐんぐんいく。やや高速走行でも安定感は抜群だ。“ちょい上”どころか天空まで行きそうな最高な気分である。ところが……ふとスピードメーターを見ると、思いのほかスピードが出ていない。「どうして?」と助手席の野村さんに質問すると意外な答え。
「輸入車のメーターはマイル表示なんです。だから今は時速30kmじゃなくて、時速30マイルで時速約50km。実は結構スピード出ているので、注意してくださいね」
なるほど。にしても、意外と運転しやすい高級外車。彼女とのドライブデートの利用者が多いというのもうなずける。
「意外な利用法として、レンタカーをプレゼントされる方もいますよ」(野村さん)
ん? どういうこと?
「彼女からクルマ好きな彼氏へ、誕生日などに贈られるんです。彼氏が欲しがっていたクルマを小耳に挟んだのでしょう。買えないからせめてレンタカーで、と。一番印象に残っているのはBMWのオープンカーをプレゼントされたシーン。1日限定のオーナーですが、プレゼントされた男性はものすごく喜んでいましたね」(野村さん)
なんというシャレオツ。私も嫁さんに「誕生日プレゼントとして、小遣いを月3万円にあげてください!」と頼むことにした(関係ない)。
あれこれ話しているうちに、ハマーと過ごせる時間も残りわずかとなってきた。いつまでも夢を見ていたい。せめてあと1日だけでも……と心の中で願っていた矢先、さっきからただお気楽に同乗しているだけの編集者Hが「のど渇きません? コンビニ、寄りましょうよ」と発言。
おい、現実に引き戻さないでくれ。仕方なく従うことにしたが、考えてみれば、それって装甲車なみにデカいハマーを駐車場に停めねばならないということなのか?
正直、腕に自信なし。普段乗っている軽自動車だってなかなか駐車が苦手なのに、再び緊張がみなぎってきた。
「サンクスに、ハマーあらわる」
ハマーを駐車場に滑り込ましたの図。なんというか、日常の中に非日常が現れた感がスゴいです。
難関はここからだ。駐車スペースを見ると、思いのほか狭い。いや、ハマーがデカいからそう感じるのだろう。どこに停めるか決め、いざ挑戦! まずはオートマのギアをバックに入れてと…。ん、車内のモニター画面で後方は確認できるのか。とはいえ、初めてなせいか緊張のせいかよく見えない。結局、ミラーを頼りにするしかないなあ。
ミラーを見つつ、後も振り返りつつ、ビクビクしながらゆっくりとアクセルを踏む。後ろに少し進み、前に戻り、また少し後ろに……。人生はワンツーマーチ的な車庫入れを繰り広げるハマーな私。コンビニから出てきた中学生がガン見。サラリーマンも苦笑中。今はこっち見んな!
「はっきりいって、駐車は不便!」
何度も切り返しをおこない、牛歩戦術なみののろさでなんとか駐車スペースに収めるの図。結論としてはコンビニいくなら自転車最強ですよ。
5分あまりたっただろうか……。ようやく駐車スペースにハマーを入れて、「待ちくたびれましたよ」と言うHの言葉に怒りを覚えながらも、コンビニでお茶を購入した。
「ちょっと涙出た」
気持ち、泣いてます。ドライブ中、最も緊張したのが、この車庫入れでした。
こうして、ハマーに不釣合いな日本茶で喉を潤し、ラストランへ。名残惜しい“ちょい上”ドライブは終了した。
あとがき
人生初のハマー体験を終えての結論。ワイルドなハマーに多少てこずったが、そのパワーはやはりすごい。秋晴れの中の快適なドライブに周囲の羨望も加わり、セレブ気分を堪能できて大満足だった。彼女とのデートに使うのもよし、キャンプなど家族とのアウトドアに使うもよし。何度も言ったが、1日2万円強出しても十分元がとれるだろう。
問題は、我が家の場合、ハマーに1日乗っただけで、月のお小遣いが一度で消えるということだ。やはり現実的には、ローンで賄うしかないかなと思う。次回のこの企画、ぜひとも「嫁さんに、お小遣いをもうちょい上にしてくださいと交渉してみよう!」、でいきたいものだ。
ライター・モモセ独断! 今回の「ちょい上」通信簿
- ちょい上度 ★★★★★
- ちょい上というより、かなり上の大満足!
- 多少ムリしてでも試したい度 ★★★★☆
- とくに誕生日などの記念日にオススメ
- 他に乗るならこれがいい度
- やはり真っ赤なポルシェ。ハマーと同じ1日2万5900円
※文/百瀬康司、企画構成/カデナクリエイト、編集/イー・ローン