第953回
相続の場面で活用できる不動産担保ローンとは
- 父が亡くなりました。相続財産は住んでいた家だけで、金融資産はほとんどありません。相続人は私と妹2人の計3人ですが、父と同居をしてきた私はこのまま住み続けたいと思っています。住宅を活用して、売却せずに遺産分割をする方法はないでしょうか?(Nさん、会社員、50歳)
- 自宅を売却せずに遺産分割をする方法として、「代償分割」があります。代償分割をするための資金がほかにない場合、不動産担保ローンを活用するという方法もあります。
不動産担保ローンを活用して代償分割
相続人が子3人なので、本来の相続分はそれぞれ1/3ずつになるケースですね。しかし、相続財産は住んでいた家のみで、物理的に分けられません。家を売却して換金して分けるという方法もありますが、Nさんが以前から住んでいる家でもあり、今後も住み続けたいと望んでいるため、その選択は取れません。
家を売らない選択肢として、「代償分割」があります。代償分割とは、住宅のように分けられない遺産を相続人の1人が相続する場合、その人が、ほかの相続人の相続分を現金で支払う方法です。Nさんに金融資産が多ければ、その資金で代償分割分を行う方法もありますが、資金が十分でない場合は、相続した家を担保に不動産担保ローンを利用してほかの相続人の代償分割の資金に充てます。借りた資金は、その後、返済していく必要があります。
不動産担保ローンとは?
不動産担保ローンは、土地や建物などの不動産を担保にして利用するローンです。担保がある借り入れであるため、無担保のローンと比べて低金利で利用でき、借入限度額も大きく、長期で借りることができる、といった特徴があります。
ただし、不動産を担保にするがゆえの注意点もあります。融資実行までに2週間から1ヵ月程度かかる点や、抵当権の設定が必要なため登記費用がかかること、返済が滞ったときには担保不動産が処分されてしまうことなどが挙げられます。
Nさんが代償分割で不動産担保ローンを利用する際には、その後の返済にムリがないかについても確認をする必要があります。
相続税や遺留分の支払いなどにも活用できる
不動産担保ローンは、代償分割以外にも相続の資金ニーズに活用できる場面があります。
相続税がかかるのに、相続財産が不動産のみか、金融資産があっても十分でないといったケースもあります。こうした場合、相続した不動産を急ぎ売却してお金を作り、相続税の支払いに充てる方法がありますが、相場より大きく値段を下げて売ることになりがちです。あるいは、買い手を探す時間がかかり相続税を納める期限(10ヵ月以内)に間に合わなくなる可能性もあります。そのため、不動産はあっても納税資金がないケースで、不動産担保ローンを活用する方法があります。
また、相続財産が不動産だけで、例えば遺言に基づいて相続人の1人がその家を相続することになった場合でも、ほかの法定相続人には「遺留分」が認められています。Nさんのケースで考えるなら、妹2人は1/6(法定相続分1/3×1/2)は「遺留分減殺請求」をすることができます。この遺留分の支払いの際にも、不動産担保ローンを活用できます。
そのほかにも、相続が発生する前に、その家に住み続けたい子が不動産を買い取るケースも考えられます。多くの金融機関で親族間売買を扱っていないことから、不動産担保ローンで代用することもできます。
私が書きました
ファイナンシャル・プランナー、シニアリスクコンサルタント。
20代前半より経営誌や経済誌、女性誌と広く手がけるライターとして個人事業を展開。1995年より独立系FPとして、雑誌やムック、新聞、サイトへの寄稿・監修、相談業務、講師などで活躍。「今日からの お金持ちレシピ」(明日香出版)をはじめ共著本など多数。
※執筆日:2021年11月30日