第1079回

相続対策での不動産購入、現金とローンで相続税に違いはある?

相続対策としてローンで投資用不動産を購入した方がいいと聞きますが、実際のところどうなのでしょう。父親から相談を受けています。(Nさん・会社員、53歳)
現金を不動産に組み替えることは相続対策としてメリットがあります。ローンを組んで購入する場合は、借入金額が大きいほど節税効果も大きくなる傾向がありますが、過度な節税は認められない可能性もあるので注意が必要です。
考え事をする中高年夫婦

遺産1億円にかかる相続税の総額は?

わかりやすくするために、まず、1億円の資産を持つAさんが亡くなったとして、相続税の総額をシミュレーションして比較してみましょう。法定相続人は妻と子ども2人の合計3人とし、基礎控除は3000万円+600万円×3人=4800万円。遺産は法定相続分通りに、妻1/2、子どもたちは1/4ずつ分け、配偶者の税額軽減(配偶者は1億6000万円までか、超えても法定相続分までなら非課税)を適用後の相続税の総額を概算します(ここでは計算過程は省略します)。

なお、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を元に計算されますが、賃貸物件の敷地は時価の60~70%程度、建物は建築価格の30~50%程度となることから、ここでは60%として試算しています(あくまでも簡略化した試算であるとご理解下さい)。

現金のみで遺産1億円を持っていたケース
現金で1億円の課税価格は1億円。
⇒相続税の総額は315万円。
遺産1億円が不動産だった場合
投資用不動産の評価額を時価の60%として課税価格は6,000万円。投資用物件で家賃収入なども入ります。
⇒相続税の総額は60万円(▲255万円)。
現金5,000万円を残し、5,000万円のローンを組み、1億円の不動産を購入
相続対策として、5,000万円のローンを組み、手元の5,000万円と併せて1億円の不動産を購入したケース。この場合、不動産の評価額を1億円×0.6=6,000万円として、現金5,000万円を足した1億1,000万円からローンの5,000万円を引くと、課税価格6,000万円となります。投資用物件から家賃収入なども入ります。
⇒相続税の総額は60万円(▲255万円)。
現金2,500万円を残し、5,000万円のローンを組み、1億2,500万円の不動産を購入
相続対策として、5,000万円のローンを組み、手元の7,500万円と併せて1億2,500円の不動産を購入したケース。この場合、不動産の評価額を1億2,500万円×0.6=7,500万円として、現金2,500万円を足した1億円からローンの5,000万円を引くと、課税価格5,000万円となります。投資用物件から家賃収入なども入ります。
⇒相続税の総額は10万円(▲305万円)。
現金を残さず、5,000万円のローンを組み、1億5,000万円の不動産を購入
相続対策として、5,000万円のローンを組み、手元の1億円と併せて1億5,000万円の不動産を購入したケース。不動産の評価額を1億5,000万円×0.6=9,000万円として、そこからローンの5,000万円を引くと、課税価格は4,000万円。投資用物件から家賃収入なども入ります。
⇒相続税の総額は0円(▲315万円)。

試算結果からわかること

試算結果からわかることとしては、次のような点です。

  • 現金や預金が多く相続税がかかる人は、資産を不動産に置き換えた方が相続税の節税になる。
  • ローンを組んで不動産を購入する際は、手元資金と比較してローンの借入金額が大きくなるほど節税効果が大きくなる。

あくまでも資産に不動産を組み込むことで評価が下がるわけです。これは不動産、特に投資用不動産の相続時の評価が、時価に比べて下げることができるからです。「ローンを組むから課税価格が下がる」という訳ではありません。

注意すべきこと

ただし、いくつかの注意点があります。

  • 投資用物件の収益性などを見極める必要がある。不動産なら何でもいいわけではない。
  • シミュレーションでは加味していないが、不動産購入やローンを組むにあたり諸費用がかかる。
  • 最も注意すべきは、基準は設けられていないものの、「行き過ぎた不動産による節税」は認められない場合があると、最高裁での判例も出ています(2022年)。特に、相続発生直前に手元資金を超える大きなローンを借りて投資用物件を購入するなどは要注意。相続対策は早めにやっておくこと、「行き過ぎ」とならない範囲で行うことが大事なようです。

※実行にあたっては税理士など専門家に相談の上行うようにしましょう。

【参考リンク】

私が書きました

豊田 眞弓 の写真

豊田 眞弓 (とよだ まゆみ)

ファイナンシャル・プランナー、シニアリスクコンサルタント。

20代前半より経営誌や経済誌、女性誌と広く手がけるライターとして個人事業を展開。1995年より独立系FPとして、雑誌やムック、新聞、サイトへの寄稿・監修、相談業務、講師などで活躍。「今日からの お金持ちレシピ」(明日香出版)をはじめ共著本など多数。

※執筆日:2024年05月14日