第833回

住宅ローン金利の上昇リスクに備えるには?

低金利の今のうちに、マイホームを取得しようと考えています。 ただ、今は低金利でも今後金利が上昇する可能性があるかと思うと心配です。 借入後、金利が上がった場合、どんな対応をすればいいでしょうか?(会社員・男性・34歳)
最低水準の低金利が続いていますが、20年、30年と長い返済期間中に、金利が上がる可能性はゼロではありません。 低金利の時は、全期間固定金利の住宅ローンを借りるのが基本です。 金利だけで考えると変動金利が最も低いのですが、金利上昇の際には最も影響を受けやすいので、事前のシミュレーションで返せる資金計画であるか確認しておきましょう。

過去最低水準の金利だからこそ、金利タイプ選びは慎重に

金利は、基本的に景気が上がれば金利も上がり、景気が下がれば金利も下がります。 今、過去最低水準の金利が続いているのは、デフレ脱却を目指し、日銀が金融緩和を行い、かつマイナス金利政策を導入したことで拍車がかかっています。 これが解除されない限り、現在の低金利は多少の上げ下げはありながらも、当面は続くと言えるでしょう。

しかし、住宅ローンの返済は、20年、30年と長きにわたります。その間、住宅ローン金利がこのままの状態であり続けるというのも考えにくいでしょう。

フラット35(返済期間21年以上、融資率90%以下)の金利推移を書き出してみると、以下のようになります。

◎現在(2019年7月)・・・・・・・ 1.18%
◎マイナス金利導入前・・・・・・ 2.0~2.6%
◎10年前(2009年5月)・・・・・ 3.07%
◎20年前(1999年)・・・・・・・・ 当初10年2.6%、11年目以降4.0%の2段階制金利
◎30年前(1989年)・・・・・・・・ 4.55%

※2007年以前は、旧・住宅金融公庫時のもの

30年前は、今では考えられないほどの金利でした。 当時はバブル経済の末期でしたが、景気がピークで住宅ローン金利が高くても、借り手は多かったわけです。 つまり、30年という年月はこれほど住宅ローン金利の状況が変わってしまうほど長い時間なのです。

住宅ローン金利は、大きく分けて3つのタイプがあります。 変動金利、固定期間選択型(3年、5年、10年など)、全期間固定金利(フラット35など)の3つです。 最近の金利では、変動金利/0.447%~、固定期間10年/0.58%~、フラット35/1.18%~となっており、変動金利は、ここしばらく変化はなく、最低金利で推移しています。

金利の低さから、最近は変動金利タイプを借りる人が多くなっています。 現状は基準となる金利が一定水準を保っている為、心配することも少ないかもしれませんが、先行きの金利動向で最も気にしなければならないのが変動金利です。 住宅ローンを借入した後は、毎月の金利を確認せずに、そのまま返済を続けている方が多いと思います。 借入額、毎月の返済額との兼ね合いはありますが、金利を確認していくような「管理」が面倒と思っている方なら、全期間固定金利でもこれだけの低金利なので、借入の際の選択肢としては、優先的に検討したほうがいいでしょう。

変動金利で借りるなら、返済期間は短く、こまめに繰上返済を

変動金利は文字通り、市中金利の動向で半年に一度、適用金利が変わります。 ただし、返済途中に金利が上がっても返済額は変わらず、5年ごとに見直されます。金利上昇が急激だったとしても、上限は1.25倍という制限もあります。

とはいえ、返済額が1.25倍になっても返済ができるのかどうかがポイントです。

変動金利が上昇し始めたときに、固定金利に借り換えようと思っても、過去のケースでは、変動金利が上がりはじめたときには、固定金利はそれよりも前に上がっていて、借り換えに躊躇する可能性もあります。

変動金利で借りる場合は、返済額が増えることを想定した返済計画を立てることが重要です。 できるだけ借入時の返済期間は無理のない範囲とし、こまめに繰上返済をし返済期間を短縮していくことが、リスクを最小限にする方法となります。

固定金利選択型で借りるなら、金利上昇がなくても適用金利が上がることを計算しておく

固定金利選択型の場合、当初借入の特約期間は金利引下げキャンペーンとして店頭金利より低く設定されているケースがほとんどです。

たとえば、固定10年で0.59%という住宅ローンがありますが、実際の店頭表示金利は3.19%で、10年間は金利引下げによって、0.59%にしているわけです。 35年返済なら、その最初の10年間だけ低金利が適用されるにすぎません。 特約期間の10年が終了した時点で、そのまま固定金利にするか、変動金利に変更するかを決めることになり、その時点での金利が適用されます。

この場合、もし金利上昇がなくても、そのまま固定金利で返済していくなら、11年目からは3.19%と、いきなり1.6%も金利が高くなってしまいます。 金利上昇があればさらに適用金利は上がる、ということです。

借りる前にこうした仕組みをよく理解するのと同時に、もし金利上昇の気配があった場合は、金利タイプの変更も含めて借り換えも検討しないといけないでしょう。

繰上返済を考えるなら、金利が低いうちのほうが効果が高い

では、今後金利が上昇したら、どう対応すればいいのでしょうか。 変動金利の対処法で前述した繰上返済は、ひとつの方法です。 繰上返済の資金は元金返済に充当されるため、その元金に相当する分の利息を減らすことができます。

繰上返済は、返済額軽減型と期間短縮型がありますが、利息軽減効果が高いのは、期間短縮型です。 金利上昇が始まる前に、元金をできるだけ減らし、返済期間を短くしておけば、金利上昇後に返済額が上がっても、住宅ローンの残債が少なく、その影響を抑えることができます。 ただ、これだけの低金利なので、そもそも毎月返済額に占める利息の割合は少なく、利息軽減額はそれほど多くはありません。

繰上返済する際は、元金を減らすこと、返済期間を短くすることと割り切って実行するようにしてください。

金利上昇のリスクを抑えるには、全期間固定金利のような固定金利型を選択することが有効です。 全期間固定金利以外の金利タイプは、金利上昇した際の、返済額増加に耐えうるか、という観点で選択するようにしましょう。

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伊藤 加奈子 (いとう かなこ)

ファイナンシャル・プランナー。

大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。不動産、住宅、マネー情報誌の編集者、マーケティングプランナーを経て2003年独立。フリーランスで各種媒体のエディトリアルアドバイザーを務める。2013年沖縄移住後は、各種WEBサイトに不動産、ライフプラン、マネープランに関するコラムの執筆を中心に活動中。

※執筆日:2019年07月30日