第724回

意外と盲点?住宅取得資金の課税関係

住宅購入を具体的に考えています。親が資金を援助してくれることになりとても助かるのですが、税金のことがよくわかりません。手続きや注意点などについても知りたいです。(Fさん 35歳 会社員)
住宅購入にあたり住宅ローンを借りる際の自己資金として、親や祖父母から資金援助を受ける場合には、「住宅取得等資金贈与の非課税制度」と「相続時精算課税制度」の2つの税制の特例制度があります。制度を理解して、上手に利用しましょう。

住宅取得等資金贈与の非課税制度とは?

住宅購入にあたり住宅ローンを借りる際の自己資金として、両親等から資金援助を受ける方もいることでしょう。 自己資金が多いほど物件の選択範囲が広がるほか、適用金利が有利になる住宅ローン商品も多くあります。 では、援助を受けた資金の税金はどうなるのでしょうか。

一般に、現金の贈与を受けた場合は贈与税の対象となります。 しかし、住宅を取得するための資金として直系尊属(親や祖父母)から援助を受ける場合、「住宅取得等資金贈与の非課税制度」と「相続時精算課税制度」の2つの税制の特例制度があります。

住宅取得等資金贈与の非課税制度とは、直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合に、条件を満たすと一定額まで贈与税が非課税になる制度です。 非課税限度額は、住宅の種類や契約締結日によって異なります。

直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税限度額
住宅用家屋の取得等に係る
契約の締結日
消費税等の税率10%で
取得した場合
左記以外
省エネ等
住宅
左記以外の
住宅
省エネ等住宅 左記以外の住宅
~平成31年3月31日
1,200万円
700万円
平成31年4月1日~平成32年3月31日
3,000万円
2,500万円
1,200万円
700万円
平成32年4月1日~平成33年3月31日
1,500万円
1,000万円
1,000万円
500万円
平成33年4月1日~平成34年3月31日
1,200万円
700万円
800万円
300万円

住宅取得等資金贈与の非課税制度の適用を受けるうえで、特に注意すべき点が4つあります。

1つ目は、直系尊属からの贈与であること。配偶者の父母や祖父母は直系尊属には当たりませんのでこの特例の適用を受けられません。

2つ目は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与を受けた資金の全額を充てて住宅の新築や取得を行い居住すること、または遅滞なく居住することが確実であると見込まれること。工事の遅れなどで3月15日までに居住できない場合にはこの特例の適用を受けられない場合があります。

3つ目は、贈与を受けた資金は「住宅の取得等の資金」に充てること。いったん金融機関から融資を受けて建築業者などに住宅取得資金の支払いを行い、その後に贈与を受けて借入金の返済に充てた場合には「住宅の取得等の資金」には該当しないため、この特例の適用を受けられません。

4つ目は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告をすること。特例の適用で贈与税が非課税となる場合でも申告しなければなりません。

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫へ贈与する場合に、2,500万円までは贈与税が非課税となる制度のことです。 2,500万円を超えた部分については一律20%の税率で贈与税を納める必要があります。 贈与者に相続が発生した場合には、この制度を利用して贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算します。 住宅の取得等の資金を贈与する場合には、贈与者が60歳未満であっても相続時精算課税制度を選択することができる特例があります。

通常の贈与は毎年110万円の非課税枠がある暦年課税という方法で贈与税を計算します。 しかし、相続時精算課税制度を一度選択してしまうと、その贈与者との間の贈与は暦年課税に戻すことができない点には注意が必要です。 なお、相続時精算課税制度は贈与者ごとに選択することができるため、父からの贈与について相続時精算課税制度を選択し、母からの贈与については暦年課税を選択する、ということも可能です。

住宅の取得等の資金として相続時精算課税制度を選択する場合には、住宅取得等資金の非課税制度と同様に、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与を受けた資金の全額を充てて住宅の新築や取得を行い居住すること、または遅滞なく居住することが確実であると見込まれること、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告をすることが条件となっています。

どっちを使う?注意点は?

住宅取得等資金贈与の非課税制度と相続時精算課税制度または暦年課税贈与は合わせて使うことが可能です。住宅取得のための資金援助を受ける場合には、まずは住宅取得等資金贈与の非課税制度の利用を検討しましょう。 その上で非課税枠を超える部分について相続時精算課税制度か暦年課税制度かを検討するとよいでしょう。

いずれの制度を選択する場合にも、贈与の時期、住宅の取得時期や新築住宅の完成時期、居住開始時期には注意が必要です。 また、期限内に申告しなければこれらの特例の適用を受けることはできません。必要書類を早めに準備して、忘れずに申告しましょう。

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私が書きました

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宮野 真弓 (みやの まゆみ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))、一級ファイナンシャル・プランニング技能士。

大学在学中にFP資格を取得。証券会社、銀行、独立系FP会社を経て独立。忙しくても無理なく実践できるメリハリ家計を提案するママFP。 ライフプラン全般の相談業務や家計簿診断、ライフプランセミナー講師、FP資格取得講座の講師として活動中。 学校での金銭教育にも注力している。

※執筆日:2017年05月08日