第482回

自分と家族の状況を把握して無理のない返済計画を!

子ども3人、年収330万円の自営業です。【フラット35】Sエコを借りて、家を買おうと思っていますが、計画に無理はないでしょうか?(Oさん 31歳 自営業)
購入して無事に完済することができるかどうかは、あなたの家計の状態次第ですが、今回の場合は問題ないと思われます。金利がずっと変わらない【フラット35】を選択して、金利上昇リスクを回避するのも良いことですね。

まずは自分と家族の状況を書き出してみよう

住宅取得の夢が膨らむ一方で、「住宅ローンの返済計画にムリはないだろうか?」と不安に思うのも当然だと思います。「買えばなんとかなるだろう」というあいまいな状態で買うよりも、「わが家の場合は買っても大丈夫!」と確信をもって買えるよう、事前に調べて準備しておきたいものですね。

今回のご相談者であるOさんは、住宅取得に際して、自分と家族の状況をできる限り詳しく列挙してくださっています。

  • 世帯年収:本人330万円 自営業の親の家族従業員 配偶者300万円 正社員
    手取り 本人25万円 ボーナスなし 配偶者 17万円 ボーナス50万円
  • 家族構成:本人(31歳) 配偶者(29歳) 子供3人(7歳、4歳、2歳)
  • 物件価格・種類:2,400万円 新築一戸建て
  • 住宅ローン:頭金 0万円(諸経費別途200万円用意有)、借入 2400万円
  • 貯蓄(購入後の残貯金):100万円
  • 昇給見込み:本人・・・来年、親の引退後600万円程度の年収になる予定
    配偶者 年10万円程度の予定
  • 定年・退職金:配偶者60歳、1,000万円程度見込み、本人は65歳予定、退職金なし
  • 将来の家族構成の予定:既に3人いるので終わりの予定
  • その他事情:両親、義両親とも近いため、育児や日常的な食料援助は見込める。また、車2台所有(ローンなし) ガソリン、携帯は会社経費扱い(実際は親の援助)で夫婦とも無料。

このように、自分と家族の状況を詳しく挙げてもらうと借りた後の暮らしの見通しも含めて、無理がないかどうかの判断がしやすくなりますので、住宅ローンを検討する際は、ご自身とご家族の状況を書き出すようにしましょう。

「借入希望額」が「借入可能額」の範囲に入っているか?

まず、金融機関からの借り入れ可能額について考えてみましょう。

金融機関からの借り入れの際、要件の1つに「返済負担率」があります。これは、年収に対するローンの年間返済額の割合のことで、金融機関によっても異なりますが、年収によって25~35%以内などと設定されています。この返済負担率を計算する際の「借入れ」には、すでに借りている自動車ローンや教育ローン、カードローン、クレジットカードによるキャッシング、分割払いなども含みます。

Oさんが検討されている【フラット35】Sエコ(金利Aプラン)の場合で考えてみましょう。物件の省エネルギー性など、条件はクリアしているという前提で考えます。返済負担率は、400万円未満の場合で「30%以下」となっています。Oさんの年収330万円で計算をすると、30%以下なので「年99万円以下」(月8万2,500円以下)となります。イー・ローンのシミュレーターでは整数でしか試算できないため、月8万円、金利年1.84%返済期間35年としてイー・ローンの借入可能額シミュレーターで試算してみると、約2,476万円となり、借入希望額の2,400万円をクリアしています。

【フラット35】のサイトには年収から借入可能額(上限)を試算するコーナーがあるので、そちらで試算をしてみると、上限2,553万円となります。ただし、一般的には「審査金利」として、年3.5%など金融機関が定める金利で試算しますので、フラット35以外の試算の時は注意しましょう。

奥様と収入合算をする方法もありますが、1人で借りることもできると思います。【フラット35】Sの収入合算のメリットとして、合算者は連帯債務者となるので、ご夫婦2人で住宅ローン控除を受けられることが挙げられます。ローン控除を1人で満額受けられない場合は、あえて収入合算にするのも手です。

【参考リンク】

【フラット35】Sの種類(2012年8月現在)
金利引下げプラン 金利引下げ期間・金利引下げ幅 融資率の上限
【フラット35】Sエコ
(金利Aプラン)
当初5年間 年▲0.7%
6年目以降20年目まで 年▲0.3%
10割
【フラット35】Sエコ
(金利Bプラン)
当初5年間 年▲0.7%
6年目以降10年目まで 年▲0.3%
【フラット35】Sベーシック
(金利Aプラン)
当初10年間 年▲0.3% 9割
【フラット35】Sベーシック
(金利Bプラン)
当初5年間 年▲0.3%  
【フラット35】の返済負担率の基準
年収 400万円未満 400万円以上
基準 30%以下 35%以下

※他の借入れを含む。収入合算者の分も含む

「借入可能額」を見てきましたが、あくまでも金融機関からの借入ができる金額です。「借りられる額」と「ムリなく返せる借入額」は異なります。Oさんやこれから家を買う方が本当に知りたいのは、後者の「ムリなく返せる借入額」でしょう。これを試算するには、現状の家計をベースにする必要があります。押さえるべきは、「ムリなく住宅ローン返済に回せる額(月平均)」と、「ムリのない返済期間」です。この額をいかに現実的な金額にするかです。

マイホームを購入すると、固定資産税がかかり、マンションなら管理費・修繕積立金、人によっては駐車場代などもかかります。また、以前の住まいよりも広くなったり、床暖房などの設備がついたりして電気代もアップします。よって、
○家賃+家用の積立分?購入後にかかるコストの月割額
が、「ムリなく住宅ローン返済に回せる額(月平均)」と見ることができます。

回の場合、「ムリなく住宅ローン返済に回せる額(月平均)」はいくらでしょうか。来年、年収が600万円にアップするのは確実なのでしょうか。もし、ならない可能性があるのであれば、現時点の家計をベースにして考えてみてください。確実な話であれば、年収がアップすることを前提に考えることはできますが、お子様3人の教育資金の準備などに回さなくてはいけない分もあるでしょうから、冷静に考えて住宅に回せる額を計算しましょう。

また、「ムリのない返済期間」は何年でしょうか。 自営業で定年がないとしても、確実に収入が得られる期間の見込みを考え、その範囲までを返済期間として設定しましょう。自営業者の場合、年金が少ない分、老後資金の準備を自分でがんばらなくてはならないので、老後資金の準備をする余力を残すためにも、ムリのない期間を設定しましょう。

「ムリなく住宅ローン返済に回せる額(月平均)」と、「ムリのない返済期間」を押さえたら、前出のシミュレーターで計算してみてください。

たとえば、9万円、30年、金利年1.84%だった場合、2,488万円。つまりは、2,400万円を借りることにムリがないことが確認できます。逆に借入希望額の2,400万円を下回る場合は、プランを見直す必要があると言えます。

【参考リンク】

「不安定な収入」と「子ども」を意識したライフプランを立てよう

共働きを続け、しかも、来年から収入が270万円ほどアップすることが確実であれば、年間のローン返済額以上のプラスとなるでしょうから、他に借り入れや、特別な事情がない限りは、大まかに考えても問題はないプランだと思われます。今の年収が330万円でも、大きな問題はないと思われます。しかしながら、ご主人は自営業で収入はサラリーマンに比べれば不安定ですし、老後資金準備を自分で行う必要があります。また、子どもも3人いて、まさにこれからお金がかかる年頃になってきますので、住宅ローンの返済が過度な負担にならないよう、今後のライフプランを立てる必要があります。【フラット35】Sは全期間固定金利ですので、引下げ前金利が上昇して住宅ローンの返済額が増えるということはありません。金利上昇を回避して、「ここまでなら確実に返済し続けられる!」という状況を目指しましょう。

私が書きました

豊田 眞弓 の写真

豊田 眞弓 (とよだ まゆみ)

ファイナンシャル・プランナー、シニアリスクコンサルタント。

20代前半より経営誌や経済誌、女性誌と広く手がけるライターとして個人事業を展開。1995年より独立系FPとして、雑誌やムック、新聞、サイトへの寄稿・監修、相談業務、講師などで活躍。「今日からの お金持ちレシピ」(明日香出版)をはじめ共著本など多数。

※執筆日:2012年08月17日