第1070回

住宅ローン金利に関する情報とどう向き合うべき?

最近、日銀のマイナス金利政策が解除されるのでは?というニュースを目にするようになりました。変動金利の住宅ローンを利用していますが、すぐに金利が上がってしまうのか不安です。今後、どんな対応をしていけばいいのか教えてください。(神奈川県・Oさん)
日銀の金融政策決定会合で可決された場合、マイナス金利政策が解除され、現状ゼロ金利である短期金利が引き上げられる可能性はあります。ただし、変動金利の住宅ローン返済額にすぐに反映されるわけではありません。一度解除されれば、長期的に金利上昇に向かうことにはなりますので、金利動向には注目しておく必要があるでしょう。
新聞を読む男性のイラスト

最近の日銀の動向に注目し、金利上昇のタイミングに注意する

昨年後半から、日銀のマイナス金利政策が解除される可能性についての報道を目にするようになりました。直近では、2024年3月18、19日に開かれる金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除について審議されることになっています。政策委員の過半数が解除妥当と判断すれば、短期金利を現状の0%から0.1%の間で引き上げられることが想定されています。

これより前の昨年12月の金融政策決定会合で、長期金利の変動幅の上限を0.25%から0.5%に拡大したことにより、住宅ローンの固定金利の基準金利を引き上げた金融機関もありました。このことによって、変動金利も上昇するのではと不安に感じた利用者もいたことでしょう。

借り入れ時の金利が返済中ずっと変わらない固定金利とは違い、変動金利は返済中に金利が見直され、市中金利の動向によっては、適用金利が上昇する可能性のある住宅ローンです。返済中に金利が上昇すれば、毎月返済額もアップし、家計に与える影響は大きくなります。

ただし、仮に変動金利が上昇したとしても、元利均等方式であれば5年間は毎月返済額が変わらず、その後の毎月返済額は1.25倍が上限とされているので(一部の金融機関では適用外)、すぐに返済計画に支障をきたすようなことはありません。マイナス金利政策の解除で変動金利は危ない、といった過剰な情報に惑わされることなく、今一度、変動金利の決まり方、返済中のリスクについて確認しておくようにしましょう。

住宅ローンの変動金利の仕組みを理解する

一般的に変動金利は、各金融機関が独自に決めています。参考としている「短期プライムレート」は銀行間の金利を元に決まりますが、日銀の定める政策金利の影響を受けています。そのため、マイナス金利政策の解除が決まれば、変動金利が上昇すると言われるのです。

しかし、現在の変動金利は1.0%を大きく下回る低利で設定している金融機関がほとんどです。本来の金利は、短期プライムレートの1.475%に1.0%を上乗せした2.475%が基準金利となっており、そこから各金融機関が金利引き下げの優遇金利を差し引き、実際の適用金利としているのです。

適用金利は例えば0.340%~2.475%などと幅があり、下限金利は金融機関が定める一定の条件を満たした場合に適用されるものです。

もともと適用金利に幅があるため、短期金利が上昇したからといって、すぐに変動金利が上がるわけではありません。変動金利を利用している人が圧倒的に多い状況で、一気に金利が上昇すると返済が困難になる人も出てくるかもしれません。そのため、急激な変化はないと見ていいでしょう。しかし、金利の特性として、一度上昇傾向になると下がることなく段階的に上がっていきます。この点には注意が必要でしょう。

変動金利の上昇に備えて、繰り上げ資金を準備する必要も

変動金利で住宅ローンを利用中の人は、今後の金利動向には細心の注意を払いつつ、金利上昇に備えた対策も考えておきましょう。

金利が上昇したとしても、元利均等方式の場合、翌月の返済額が増えるわけではなく、5年間は変わらず6年目に入る段階で毎月返済額が見直されます。しかし適用金利は、半年に一度見直されています。そのため金利が上昇すると毎月の返済額に占める利息の割合が増え、元金返済の割合が減少します。つまり住宅ローン残高の減少が遅くなっていきます。

金利上昇が続けば、利息の割合が増え続け、最悪の場合、完済予定時に未払い利息が残る可能性もあります。変動金利を選択する際に、よく言われるリスクの一つです。現実的に短期間で金利が大幅に上昇することは考えにくいですが、金利上昇によって元金返済スピードが遅くなることは理解しておくといいでしょう。

これからできる対応策としては、固定金利型に借り換えることで、毎月返済額が多少増えたとしても、今後の金利上昇リスクを不安に感じることはなくなります。ただし、長期金利はすでに上昇傾向にあり、いざ借り換えようとしたときには、長期金利に連動する固定金利はもっと上がってしまっている、ということが考えられます。固定金利への借り換えを検討するなら、早めに対応したほうがいいでしょう。また、借り換えの際にかかる諸費用も必要ですから、毎月返済額の増額分と合わせてシミュレーションし、無理のない返済計画を確認しておくことが大切です。

もう一つは、変動金利のまま返済を続けるものの、定期的に繰り上げ返済をして、元金を減らしておくという方法です。繰り上げ返済の資金はすべて、元金部分に充当されますので、金利上昇で元金の減少スピードが遅くなった場合に有効な手段となります。また、期間短縮型の繰り上げ返済であれば、完済時期を早めることになり、将来の金利上昇リスクを抑えることもできます。

いずれにしても、そう遠くない段階で金利は上昇局面を迎えると考え、変動金利で住宅ローンを借りている場合は、金利動向を確認し、返済計画をチェックすることを忘れないようにしましょう。

また、これから住宅ローンを変動金利で新規借り入れする場合は、金利上昇して毎月返済額が増額になっても、無理なく返済できる金額にとどめるなど、慎重な判断をするようにしましょう。

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私が書きました

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伊藤 加奈子 (いとう かなこ)

ファイナンシャル・プランナー。

大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。不動産、住宅、マネー情報誌の編集者、マーケティングプランナーを経て2003年独立。フリーランスで各種媒体のエディトリアルアドバイザーを務める。2013年沖縄移住後は、各種WEBサイトに不動産、ライフプラン、マネープランに関するコラムの執筆を中心に活動中。

※執筆日:2024年03月12日