第1046回

最長50年まで!長期の住宅ローンは注意点に気を付けて上手に活用しよう!

マイホーム購入を検討していますが、年齢が若いため年収もそれほど高くありません。住宅ローンを50年返済で借り入れすれば、借入可能額も大きくなり、希望の物件を購入できるかもしれないと聞きました。もし借りるとしたら、どのようなことに注意すればいいでしょうか? (東京都Aさん)
昨今の住宅価格の高騰を受け、住宅ローンの最長返済期間を50年にする銀行が相次いでいます。返済期間が長くなれば毎月返済額が抑えられるため、借入可能額も大きくすることができます。しかし、50年という長い歳月をかけて返済していくリスクもあります。借入可能額を大きくできるメリットだけではなく、長期ローンのデメリットも理解しておきましょう。

住宅購入のハードルを下げるため、若年層をターゲットに長期返済の住宅ローンが登場

これまでも一部の地方銀行では、住宅ローンの最長返済期間を50年とするところがありました。また、住宅金融支援機構には一般的な【フラット35】のほか、【フラット50】があり、取り扱いのある銀行から融資を受けることが可能でした。そして最近では、インターネット取引専用のネット銀行でも、従来の最長35年返済を50年に延ばす金融機関が現れ、大きな話題となりました。

こうした返済期間の長いローンが出てきた背景には、近年の住宅価格の高騰があります。特に首都圏では新築マンションの平均価格は6,907万円(不動産経済研究所調査、2022年度)となっており、都区部では9,899万円(同調査)と、1億円近い価格となっています。

これだけ購入価格が高騰してしまうと、住宅購入を諦める人も多いでしょうし、特に若年層は年収も高くはないので、年収に対する返済負担率を考慮すると、住宅ローンの借入可能額は抑えられてしまいます。潤沢な頭金が用意できればいいのですが、若年層は困難であるというのが実態です。

そこで、最長返済期間を従来の35年から50年に延ばすことで、毎月の返済負担を減らし、借入可能額を増やそうという意図で、相次いで50年ローンが登場しました。

50年返済のメリットは、毎月返済額を抑えることができ、借入可能額を増やせること

前述したように、これまでも50年返済が可能な住宅ローンはありました。しかし、【フラット50】は一般的な【フラット35】よりも申込条件が厳しく、長期優良住宅のみが対象で、金利も全期間固定のため、2.05%(2023年9月時点、最頻金利)とやや高い設定になっています。地方銀行の場合は、営業管轄のエリアのみが対象となるため、利用できないケースもあります。ご自身が利用しようとしているエリアに50年返済の住宅ローンを取り扱っている銀行があれば、一度、条件などを確認してみるといいでしょう。最近取り扱いを開始したネット銀行では、50年返済の場合は当初から金利は通常金利に0.15%上乗せするとしています。いずれにしても、50年返済でローンを借り入れる際は、一般的な住宅ローンの申込条件と異なりますのでよく調べておくといいでしょう。

では、具体的に、50年返済を選択すると、毎月の返済額はどうなるのか見ていきましょう。

35年返済と50年返済の比較(固定金利)

(借金入額5,000万円、元利均等返済、毎月返済のみでボーナス時返済なし、金利はフラット 35、フラット50で、全期間固定。2023年9月最頻金利。金額の単位は円)

  金利 毎月返済額 返済総額 (うち利息)
35年返済
1.80%
160,546
67,429,320
17,429,320
50年返済
2.05%
133,278
79,966,800
29,966,800

※イー・ローン「住宅ローンのかんたん返済額シミュレーション」にて筆者試算

借入金額5,000万円を全期間固定の【フラット35】、【フラット50】で借り入れた場合、適用金利は【フラット50】のほうが、0.25%高くなりますが、返済期間が長くなるため、毎月返済額は2万7,268円抑えることができます。ただ、返済総額で見ると、約1,254万円も多く支払うことになります。また、年収に対する年間返済額の割合を30%にすると、【フラット35】の場合は、年収643万円以上、【フラット50】の場合は年収534万円以上が必要となります。

さらに【フラット50】の融資条件として「購入価格、建築価格の6割まで」という制限があります。残りの4割は頭金を用意するか、【フラット35】と併用することになり、現実的には、若年層が【フラット50】を利用するのは難しいかもしれません。

35年返済と50年返済の比較(変動金利)

(借金入額5,000万円、元利均等返済、毎月返済のみでボーナス時返済なし、金利は50年ローン取り扱いのあるネット銀行の例、変動金利。金額の単位は円)

  金利 毎月返済額 返済総額 (うち利息)
35年返済
0.32%
125,855
52,859,100
2,859,100
50年返済
0.47%
93,524
56,114,400
6,114,400

※イー・ローン「住宅ローンのかんたん返済額シミュレーション」にて筆者試算

毎月返済額の負担を軽減するために、変動金利を選択する、という人も多くいます。上記は、同じ5,000万円を変動金利で借り入れた場合の試算です。50年返済を選択できる銀行では、適用金利を当初から上乗せしているところもあります。試算は、通常金利から0.15%上乗せのあるケースです。また、変動金利なので返済途中で金利が上がることも考えられますが、試算では、完済まで変動しなかったものとして計算しています。

50年返済で金利が0.15%上乗せになったとしても、毎月返済額は10万円以下に抑えることができています。ただし、固定金利の試算と同様に、返済期間が長期になるため、返済総額は35年返済よりも約326万円多く支払うことになります。年収負担率を30%で計算すると、35年返済で必要な年収は504万円、50年返済では年収375万円となります。

住宅ローンを返済しつつ、教育費の準備、老後の備えをしっかりできるかがポイント

試算で見てきたように、変動金利の50年返済では、毎月返済額を10万円に抑えつつ、5,000万円を借り入れることが可能となり、年収が少ない層にも、住宅購入のチャンスが出てきたと言えるかもしれません。

しかし、50年もの長期にわたる返済になり、人生の大半、住宅ローンを抱え続けることになります。この間に、子どもの教育費がかかり、自分の老後資金も貯めていかなければなりません。定年退職後も住宅ローンが残りますので、ずっと働き続けるか、年金から住宅ローン返済をしていく必要があります。

これは50年返済に限ったことではありませんが、借りられる金額ではなく、返済できる金額で住宅ローンの資金計画を立て、できるだけ多くの頭金を用意し借入金額を抑える、という基本の考え方があります。それに基づき、無理のない購入価格の物件を選ぶことが最も大事です。

現在の不動産価格の上昇もいつまで続くかわかりません。基本を忘れず、無理のない住宅ローン選びを心がけるようにしましょう。

【参考リンク】

私が書きました

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伊藤 加奈子 (いとう かなこ)

ファイナンシャル・プランナー。

大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。不動産、住宅、マネー情報誌の編集者、マーケティングプランナーを経て2003年独立。フリーランスで各種媒体のエディトリアルアドバイザーを務める。2013年沖縄移住後は、各種WEBサイトに不動産、ライフプラン、マネープランに関するコラムの執筆を中心に活動中。

※執筆日:2023年09月26日