第63回
掲載:/更新:住宅ローン変動金利は利上げで今後一気に上がる? 金利上昇に備える3つのポイント
- 住宅ローンの変動金利はどう決まる?
- 住宅ローンの変動金利は一気に上がるのか?
- 変動金利の上昇リスクに備える3つのポイント
- まとめ
- 住宅ローンの総合ランキング
2024年7月に開かれた金融政策決定会合において、日銀は政策金利を0.25%まで利上げすることを決定したため、金融機関が変動金利を引き上げる動きが出てきています。現状、金利が急激に上昇するとは考えにくいのですが、住宅ローンの利用を検討している方は、金利上昇を見据えた上で住宅ローンを検討する必要があります。そこで本記事では、「住宅ローンの変動金利の仕組み」や「今後の見通し」「金利上昇に備えた対策」についてご紹介します。
住宅ローンの変動金利はどう決まる?
変動金利型の住宅ローンは、借入期間中に金利が変動し、定期的に月々の返済額に見直しが入るタイプの住宅ローンです。固定金利型に比べて低い金利で利用できるため、多くの住宅ローン利用者が変動金利型を選択しています。
日銀が1990年代末から続けていた超低金利政策によって、住宅ローン金利は長らく歴史的な低水準にありました。中でも変動金利は、2016年から始まったマイナス金利政策の影響で1%を切る水準が続いていましたが、2024年3月の利上げおよび同7月の追加利上げにより、住宅ローンの変動金利が上昇する流れになっています。
なぜ住宅ローンの変動金利は政策金利と連動して上がるのでしょうか。まずは、住宅ローンの変動金利の仕組みからみていきましょう。
変動金利は短期金利の影響を受けやすい
多くの金融機関は、変動金利を決める際に「短期プライムレート」を参考にしています。
「短期」とは、主として1年未満を意味し、「プライムレート」とは、返済能力が高いとされる優良企業に対する最優遇貸出金利を意味しています。
つまり短期プライムレートとは、返済能力が高い優れた企業に対して、1年未満の融資をする際の金利という意味です。
銀行は貸し出すお金が足りなかった場合、どこからか資金を調達する必要があります。その一つの方法が、お金が余っている他の銀行から借りてくることです。この金利は、銀行間の需要と供給で決まります。短期プライムレートは、この銀行間の金利をもとに決まります。
そして、短期プライムレートは、日銀が定める政策金利の影響を受けます。日銀は銀行から当座預金を受け入れており、その一部に対して政策金利が適用されます。つまり、政策金利が低下した場合、他の金融機関に資金を貸し出す動機付けとなり、供給過剰から銀行間取引の金利低下要因となります。
このように短期プライムレートに対する影響が大きい銀行間の貸し借りの市場で、政策金利への誘導を図ろうとするので「変動金利は政策金利の動向が反映される」と言われるわけです。
これまでは銀行の収益の観点から金利引き下げ余地が無く、政策金利がマイナス金利に低下しても短期プライムレートの最頻値は1.475%が続いていました。しかし2024年7月に政策金利が0.25%に引き上げられたのを機に、大手5行は短期プライムレートの0.15%引き上げを発表。同9月以降の最頻値が1.625%となる見込みです。各行の短期プライムレートの引き上げは2007年以来であり、短期プライムレートに連動する住宅ローン変動金利の上昇が予想されます。
住宅ローンの変動金利型の適用金利決定方法
金融機関は、まず、住宅ローンの定価に当たる「基準金利(店頭金利)」から決めます。基準金利は、短期プライムレートに一定幅を上乗せする方法で決められ、一般に1%程度が上乗せされます。短期プライムレートが1.475%とすれば、変動金利型住宅ローンの基準金利は2.475%となるわけです。
もっとも、実際には定価にあたる基準金利で借りる人はほとんどいないでしょう。他のモノやサービスと同様、定価があれば、割引サービスもあるからです。
それが「引き下げ金利(優遇金利)」と言われる金利です。基準金利から引き下げ金利を引いたものを「適用金利」と言います。
基準金利(店頭金利) - 引き下げ金利(優遇金利) = 適用金利
住宅ローンの広告などで打ち出されている「金利0.475%」といった低い金利が、この適用金利です。ただし、「0.340%~2.475%」のように幅のある金利のうち下限金利は銀行が定める条件を満たした信用力のある利用者に対する最優遇金利です。優遇条件を満たしていない場合や審査結果によっては、それより高い金利が適用されることがあります。
なお、引き下げ金利は次の2種類に分類されており、引き下げを受けられる期間と引き下げ幅が異なります。
- 全期間引き下げ
- 当初期間引き下げ
全期間引き下げでは、住宅ローンの借入開始から完済までの期間を通して、一定の引き下げを受けられるタイプです。一方の当初期間引き下げは、一定の返済期間のみ引き下げが適用されますが、全期間引き下げに比べ期間中の引き下げ幅が大きく設定されます。
住宅ローンの変動金利は一気に上がるのか?
マイナス金利政策を背景に、住宅ローンの変動金利は最低水準が続いていました。しかし、2024年3月のマイナス金利政策解除を受け、金利を引き上げる金融機関が出始めています。さらに同7月の追加利上げを受け、変動金利は、どのようになるのでしょうか。一気にあがってしまうようなことが果たして起こるのかどうか考察してみましょう。
当面は一気に上がることは考えにくい
適用金利の決定方法で述べたとおり、住宅ローンの金利は各金融機関がそれぞれ独自に決定しています。一般的に決定のタイミングは毎年4月と10月の2度設けられており、決定後3カ月程度で店頭金利へ反映されます。
今回の政策金利引き上げを受け、各行は9月に短期プライムレートの引き上げを決定しましたが、当面、住宅ローンの金利が一気に上がるとは考えられません。その理由は、各行は他行の動向を見ながらの変動金利の引き上げになると予想され、お互いに様子を見ながら緩やかに引き上げを行うと考えられるでしょう。
また、今回の金利引き上げは日銀が行う金融緩和を全て解除するものではありません。今後も緩和的な金融環境は維持されることから、今後は行きすぎともいえた従来の低金利状態が是正に向かう程度の引き上げが行われるでしょう。
さらに、無視できないのが、金利引き上げが与える住宅需要への影響です。日本では住宅ローンを変動金利で組んでいる人が圧倒的に多いため、金利の引き上げによりローンを組みにくくなる人が続出すると予想されます。そうなれば景気が一気に冷え込む可能性が考えられるため、金利引き上げには慎重にならざるを得ないという見方もあります。
一方、引き下げ金利部分を増やす調整で対応する可能性もあります。その場合は新規借り入れの適用金利は大きく変動しません。ただし、引き下げ金利幅を大きくする対応では返済中の方の適用金利は上がっていくことになります。
利上げや景気動向によってさらなる上昇の余地あり
日銀の植田和男総裁は、2024年7月31日まで開いた金融政策決定会合後の会見において、さらなる利上げの可能性を示唆しています。政策金利は過去に0.5%を超えたことがないという指摘に対し「0.5%を壁として意識していない」「データ次第で一段の調整があり得る」と発言。また、利上げの負担は賃金の上昇でカバーできるという認識を示しました。これらの発言を鑑みれば、2024年中にもう一度、0.5~0.8%程度までの追加利上げが行われる可能性が高いと推察できます。
前述の通り、政策金利の変動は住宅ローン変動金利に大きな影響を与えます。金利は上がる時には政策金利に従い一斉に上昇する傾向があります。加えて賃金が上がっているといっても、経済が好調とは言えない状況なので、注意が必要です。
一方、アメリカなどの諸外国では利上げは終り、すでに利下げの段階に入っているので、日本の政策金利引き上げに対する圧力は弱まるかもしれません。しかし、諸外国からの影響を考慮しても金利上昇の余地はまだまだ残されていると見られることから、金利引き上げに対する備えを意識しておく必要があると考えられます。
変動金利の上昇リスクに備える3つのポイント
住宅ローンは数年から数十年の間返済し続ける必要があります。今後は金利の上昇にともない返済総額が増えることが予想されますので、変動金利で借りた住宅ローンの返済に苦しまないよう、3つのポイントを意識してリスクに備えましょう。
(1)借入金額を少なく設定する
住宅ローンの返済に付随する利息は元本の額に比例します。借入額が小さいほど支払う利息の額が減りますので、できるだけ住宅ローンに頼らない物件の購入プランを立てましょう。
特に変動金利が上昇すると、元本の残額が多いほど支払う利息が増え、返済総額が大きく増加するおそれがあります。ローンを組んだタイミングでは低金利だったとしても、十数年後に金利が上がるケースも考えられます。金利の上昇が原因で返済できなくなるといったことにならないよう、頭金を多めに入れて借入額を減らすか、多額のローンを組まずに購入できる物件を選ぶのが賢明です。また、これから住宅ローンを借り入れる場合は、金利の上昇を見据えたシミュレーションを行ったうえで返済計画を立てましょう。
(2)こまめに繰上返済をする
住宅ローンは毎月の約定返済だけでなく、任意のタイミングで返済をする繰上返済が可能です。ボーナスが出たタイミングなど資金に余裕があるときに繰上返済をしておくと、変動金利の上昇による影響を受けにくくなります。
住宅ローンの繰上返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。期間短縮型は毎月の返済額を変えずに返済期間を短縮。返済額軽減型は返済期間を変えずに毎月の返済額を減らせます。
どちらの方法で繰上返済を行ってもよいですが、住宅ローン控除を利用している方は注意が必要です。
住宅ローン控除は10年以上の住宅ローンを組んでいる場合に、最大13年間(中古は10年間)ローンの年末残高×0.7%分を所得税から控除できる制度です。繰上返済により住宅ローンの残高が減少すると、控除額も小さくなります。期間を短縮した結果、残りの返済期間が10年未満になると控除の対象外となりますので、タイミングには気を付けましょう。
また、繰上返済にともない団体信用生命保険(団信)の保障期間・保障額が変動する点にも注意が必要です。団信の保障期間・保障額は住宅ローンの残債に連動します。繰上返済により住宅ローンの残債が減るに従い、保障が減少する点には注意しましょう。
繰上返済は返済総額を減らせるメリットがありますので、まずは繰上返済を検討できるだけの貯蓄を目指し、そのうえで団信の保障への影響を含めた繰上返済の実施を検討するとよいでしょう。当然ながら繰上返済を行えば手元の現金は減少しますので、近いうちに大きな出費の予定がないかも確認しておきましょう。
(3)借り換えを検討する
変動金利の大幅な上昇に備え、より金利の低い住宅ローンへの借り換えもよい対策です。借り換え先は固定金利が候補に挙がりますが、一般的に変動金利が上昇する状況では固定金利はさらに上昇すると予測されるため、将来金利が上がってからでは手遅れとなる可能性が高いでしょう。
その他の有効な借り換え先として考えられるのは、同じ変動金利で低金利の住宅ローンです。借り換え先は低金利を売りにする他行の住宅ローンだけでなく、同じ銀行が提供する別のプランも候補に挙がるでしょう。
なお、住宅ローンの借り換えの際には、事務手数料や保証料、登記のための司法書士報酬といった費用がかかります。残りのローン残額によっては、金利が下がる効果以上に諸費用がかかってしまい、かえって返済総額が増えることも。借り換えの手間を掛けて損をしたということにならないよう、十分なシミュレーションを行いましょう。
まとめ
住宅ローンの変動金利は、日銀が政策金利の追加利上げを行ったことにより、今後上昇すると考えられます。急激な上昇はしないかもしれませんが、長期的に見れば返済総額の増加は避けられませんので、利上げ後も過度な負担なく返済できるような準備が望まれます。
金利上昇の影響を抑えるための対策として考えられるのが、借入金額の低減や積極的な繰上返済、低金利ローンへの借り換えといった方法です。住宅ローンは何十年と付き合い続けるものです。どのような時でも支払いが必要以上に生活の負担にならないよう、変化に備えた返済プランを立てておきましょう。自分に合った住宅ローンをお探しの方は、ぜひ総合ローンサイト「イー・ローン」をご利用ください。
住宅ローンの返済に興味がある方はぜひこちらのページもご覧ください。
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文/手塚 裕之