第53回
住宅ローンの繰り上げ返済はお得?シミュレーションで効果を比較
- 住宅ローンの繰り上げ返済
- 繰り上げ返済の方法
- 住宅ローンの繰り上げ返済の効果|シミュレーション
- 住宅ローンの繰り上げ返済の注意点
- 住宅ローンの全額繰り上げ返済の手続き
- まとめ
- 住宅ローンの総合ランキング
人生のなかで最も大きな買い物といわれる住宅の購入。住宅ローンを利用している方も多いでしょう。住宅ローンは長い期間にわたって返済を続けていかなければなりませんが、できれば少しでも早く返済を終えたいものです。そんな住宅ローンを利用している人が気になることの一つに、「繰り上げ返済」があります。繰り上げ返済を行うことでどの程度お得になるのか、繰り上げ返済の2つの種類と併せて解説します。
住宅ローンの繰り上げ返済
住宅ローンの繰り上げ返済とはどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
住宅ローンの繰り上げ返済とは
通常、住宅ローンは毎月(人によってはボーナス時期にも)契約時に定めた金額を返済していくものです。その毎月の返済とは別に、住宅ローンの借入残高の一部、もしくは全額を別途返済することを「繰り上げ返済」といいます。毎月の返済では、「元本+利息」を支払いますが、繰り上げ返済で支払うのは元本部分のみとなります(繰り上げ返済日までの経過利息の支払いも必要です)。
元本部分が減るため、結果として元本にかかる利息も減らすことができ、効果的に返済額を減らしていくことができます。
この繰り上げ返済には、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つの方法があります(金融機関によってはどちらか一方のみの取り扱いの場合もあります)。これらの詳細については後ほど解説するシミュレーションと併せてご確認ください。
繰り上げ返済の方法
繰り上げ返済には主に以下2つの方法があります。
返済期間短縮型
「返済期間短縮型」は、毎月の返済額は変更せず返済期間を短縮する繰り上げ返済の方法です。返済期間を短くすると、短縮された期間にかかるはずだった利息が無くなります。「返済期間短縮型」のほうが、「返済額軽減型」よりも利息の軽減効果が高くなります。
返済額軽減型
「返済額軽減型」は、返済期間の変更はせず毎月の返済額を減らす繰り上げ返済の方法です。毎月の負担を減らしたい人に向いています。
住宅ローンの繰り上げ返済の効果|シミュレーション
住宅ローンの繰り上げ返済をすることによって、どのくらいお得になるかを以下の例をもとにチェックしてみましょう。
- ローン借入残高:3,000万円
- ローン期間:35年
- 金利: 0.6%(契約から完済まで金利変更なしとします)
- ボーナス返済:なし
- 返済方法:元利均等方式
- 毎月返済額:7万9,208円
- 返済総額:3,326万7,429円
ここから、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」のそれぞれで繰り上げ返済をした場合などのシミュレーションを基に解説していきます。
返済期間短縮型で繰り上げ返済した場合のシミュレーション
返済期間短縮型の概要
返済期間短縮型は、毎月の返済額は変更なく、完済までの期間を短くする繰り上げ返済の方法です。その短縮された期間に支払うことになるはずだった利息分が軽減されます。
シミュレーション
上記の条件のもと、借り入れから5年後(残年数30年)に200万円を一部繰り上げ返済した場合の毎月の返済額と返済総額を見ていきましょう。
- 毎月返済額:7万9,208円
- 返済総額:3,289万449円
- 残年数:27年6ヵ月
繰り上げ返済なしと比べ、返済総額は37万6,980円減少しました。また、残年数も2年半短縮しています。
返済期間短縮型に向いている人
返済期間短縮型では、毎月の返済額は変わらないため、現在の毎月の返済額を無理なく返していける人に向いているでしょう。また、返済期間が短くなり、利息の軽減効果が高いため、できるだけ返済総額を減らしたい人にも向いています。
返済額軽減型で繰り上げ返済した場合のシミュレーション
返済額軽減型の概要
返済額軽減型は、毎月の返済額を軽減することができる繰り上げ返済方法です。
シミュレーション
借り入れから5年後(残年数30年)に、200万円を一部繰り上げ返済した場合の毎月の返済額と返済総額を見ていきましょう。
- 毎月返済額:7万3,136円
- 返済総額:3,308万1,548円
- 残年数:30年
返済額軽減型に向いている人
返済額軽減型の繰り上げ返済で、毎月の返済額を減らすことができます。そのため、教育費などの支払いがあり、毎月の負担を少しでも減らしたい人に向いているでしょう。しかし、返済期間短縮型に比べて返済総額の減り方は少なく、返済年数も今までと変わらない点は理解しておきましょう。繰り上げ返済のタイミングの違いによるシミュレーション
繰り上げ返済のタイミングによって契約期間中にかかる利息額も変わります。
シミュレーション
「10年後に200万円」「20年後に200万円」の2パターンで繰り上げ返済した場合の返済総額の違いを見ていきましょう。
※どちらも返済期間短縮型で計算します。
・10年後に200万円繰り上げ返済した場合
- 返済総額:3,296万169円
・20年後に200万円繰り上げ返済した場合
- 返済総額:3,309万3,592円
同じ200万円の繰り上げ返済でも、支払い時期が10年後と20年後とでは返済総額が13万3,423円も違います。この点から、繰り上げ返済をする際はなるべく早めに行うと、お得になることがわかります。
借入金額の違いによるシミュレーション
借入金額によって利息額はどのくらい違うのかも確認してみましょう。
シミュレーション
3,000万円の住宅購入の際、頭金を1,000万円入れて、残りの2,000万円を住宅ローンで組む場合と、3,000万円を全額住宅ローンで組む場合でかかる利息をシミュレーションしてみましょう。ローン期間・金利などは上記と同じとします。
・2,000万円借り入れの場合
- 返済総額:2,217万8,226円
- 利息部分:217万8,226円
・3,000万円借り入れの場合
- 返済総額:3,326万7,429円
- 利息部分:326万7,429円
借入金額が1,000万円違うと、利息額が108万9,203円変わります。利息を減らしたいのならば、繰り上げ返済も大切ですが、借入時に頭金を多くしておくと良いでしょう。
住宅ローンの繰り上げ返済の注意点
住宅ローンの繰り上げ返済の注意点についてご紹介します。
住宅ローン控除の適用外となる場合がある
住宅ローン控除とは、10年以上の契約期間があるなど条件を満たした場合、住宅ローンの年末時点の借入残高の1%が所得税から控除されるというものです。控除期間は10年ですが、消費税10%で住宅を取得し、2020年12月31日までに入居の場合は13年に延長されます。(利用には収入などの条件もあります)
繰り上げ返済で期間短縮しすぎると、残年数が10年を切ってしまい、住宅ローン控除の条件から外れる可能性があります。返済期間を短くすることを優先するか、控除を優先するかはよく考えましょう。
住宅ローン控除額が減少する場合がある
繰り上げ返済をすると住宅ローン控除枠が減少する可能性もあるので注意しましょう。住宅ローン控除は年末の借入残高の1%をもとに計算されるため、繰り上げ返済で残高が減れば、控除額が減ることになります。
また、金利によっては、繰り上げ返済で減らすことができる利息額よりも控除額のほうが少なくなってしまい、損をする可能性もあります。繰り上げ返済の手続きをする前に、住宅ローン控除とどちらがお得になるかをよく検討しましょう。
※新型コロナウイルス拡大を受けて、13年の住宅ローン控除適用になる入居期限の条件が緩和されています。詳しくは国土交通省ホームページでご確認ください。
- 国土交通省:住宅ローン減税の適用要件が弾力化されます!
金利上昇で返済額が上がることもある
住宅ローンを変動金利、元利均等方式で契約している場合は注意してください。利息額が増える可能性があるためです。
通常、変動金利では半年に1度金利の見直しがあります。ほとんど金利が変化しない時は問題ないのですが、金利が急激に上昇した場合、毎月の返済額の中で利息部分が増えてしまい、元本部分が減らなくなるかもしれないのです。
多くの金融機関の住宅ローン(変動金利)では、「5年ルール」「125%ルール」というものを適用しています。金利の見直し時に金利上昇があっても、家計への負担を防ぐため、返済額は5年間変わらず、5年後に変更されても元の返済額の125%以上は上昇しないというものです。
金利上昇があった際は、毎月支払うべき利息の金額が返済額よりも多くなり、「未払利息」が発生し、その分の支払を6年後に返済する必要が出てくる可能性があります。(住宅ローンの終盤にまとめて支払う場合もあります。)
また、「5年ルール」や「125%ルール」は、繰り上げ返済した場合は適用されません。そのときの借入残高と金利で返済額をあらためて計算し直すことになります。そのため、「5年ルール」「125%ルール」の見直し以前に、繰り上げ返済時点の金利によっては、繰り上げ返済前よりも毎月の返済額が増えてしまう可能性もあります。
手数料がかかる可能性がある
金融機関によっては、繰り上げ返済に手数料がかかる場合があります。なかには、5,000円~4万円前後かかるところもあります。何度も繰り上げ返済を行うと手数料だけで多くの金額を支払うことになるので事前に繰り上げ返済の手数料を確認のうえ、シミュレーションしておくと安心です。
また、変動金利と固定金利でも繰り上げ返済手数料が違います。変動金利よりも特約破棄扱いになる固定金利のほうが、手数料が多くかかることを覚えておきましょう。
なお、インターネットバンキングからの繰り上げ返済の場合は手数料無料という金融機関もあるので、インターネットバンキングの契約も確認しておきましょう。また、繰り上げ返済額も1円~数万円など、受け付けできる金額は金融機関によって異なります。この点もチェックしておきましょう。
保証料の返還があるかの確認
住宅ローンの諸費用として保証料がかかる金融機関もありますが、この保証料の支払い方法は、住宅ローン契約時に一括で支払う方法と、「住宅ローン金利+0.2%程度」のように金利に組み込んで支払う方法があります。
一括で保証料を支払っている場合は、繰り上げ返済で保証料の一部が戻ってくる場合があります。ただし、繰り上げ返済の金額が少ない場合は保証料の戻しがないこともあるため、確認しておきましょう。また、保証会社へ保証料の返戻手数料を支払う場合もあります。
なお、最近ではネット銀行を中心に「保証料不要」の住宅ローンも多く存在します。
住宅ローンの全額繰り上げ返済の手続き
住宅ローンは、借入残高の一部を繰り上げ返済するだけでなく、全額繰り上げ返済をすることもできます。その際の手続きについても確認しておきましょう。
手続きの流れ
全額繰り上げ返済の手続き
全額繰り上げ返済を希望する場合は、返済日当日までの未払い分利息の金額を問い合わせて確認しておきましょう。手続きは、来店のみの金融機関もあるため注意してください。全額繰り上げ返済では、以下の支払いが必要です。
- 住宅ローン借入残高
- 済日当日までの未払い分利息
- 繰り上げ返済手数料(必要な場合)
一括で保証料を支払っている場合は、保証会社の手数料を差し引いた金額が返金されることもあります。
抵当権の抹消手続き
住宅ローン返済中の物件には、返済不履行となった場合に貸出先の金融機関が優先的に債務の弁済を行えるよう抵当権が設定されています。しかし、繰り上げ返済で完済すれば抵当権の対象となる債務はなくなる為、不要となります。抵当権を抹消するための書類は、完済後に原則、店頭(例外で郵送)での受け取りになる金融機関が多い傾向です。依頼してその場で抵当権抹消手続きの書類がもらえるわけではないため、スケジュールに余裕をもって依頼するのが良いでしょう。受け取りの際は、実印や、顔写真付きの本人確認書類の持参などを求められることもあります。
抵当権抹消に必要な書類は、以下の通りです。
- 抵当権設定契約証書
- 抵当権解除証書
- 登記事項証明書
- 抵当権抹消の委任状
解除証書と委任状は新たに自署捺印をします。これらを法務局に持参し、手続きを行います。司法書士に手続きを依頼することもできますが、その際は司法書士報酬も必要です。
火災保険の質権消滅手続き
全額繰り上げ返済で住宅ローンを完済したら、金融機関から火災保険の保険証券が送付されてきます。これは、火災保険の質権が消滅したため、送られてくるものです。質権は消滅していますが、火災保険の契約は満期まで有効なので、証券はそのまま保管しておきましょう。なお、現在では火災保険の質権設定を求められることはほとんどなくなっています。
まとめ
住宅ローンは、毎月の約定返済とは別に繰り上げて返済を行うことも可能です。繰り上げ返済には、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類がありますが、「返済期間短縮型」のほうが、期間が短縮できるだけでなく、返済総額も「返済額軽減型」より少なくなります。「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」いずれか片方のみ取り扱う金融機関もありますので、契約時に確認しておくと良いでしょう。
また、繰り上げ返済は一部繰り上げ返済だけでなく全額繰り上げ返済もできます。この場合は、住宅ローン借入残高や未払い利息の支払いに加え、抵当権の抹消や場合によって火災保険の質権消滅も必要です。特に、抵当権は自動で抹消されないため、抹消手続きを行う必要があります。抵当権抹消手続きでどのような書類が必要かをあらかじめ知っておくと、スムーズに手続きがおこなえるでしょう。
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文/田尻 宏子