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第907回

団信の加入審査が不安な場合の住宅ローンの選択肢は?

今後1~2年のうちに、マイホームの購入を考えており、その時は住宅ローンを借りる必要があります。ただ、住宅ローンを借りる時に加入しなければならない団体信用生命保険について、過去の病気を理由に加入できないかもしれないと心配しています。何かいい手立てはないものでしょうか。(埼玉県 会社員 45歳 男性)
住宅ローンの返済中にローン契約者が死亡するなどの万が一の事態に備えて、団体信用生命保険(以後、団信)に加入しておくことは、遺族に返済の負担をかけないためにも必要でしょう。しかし、通常の団信(以後、一般団信)に健康上の理由で加入できない方もいらっしゃいます。そのような方に対して、引受条件が緩和された「ワイド団信」を提供している金融機関もあります。また、団信への加入が任意となっている「フラット35(買取型)」を活用する選択肢もあります。まずは、一般団信への加入の可否を確認し、加入できないようなら、「ワイド団信」への加入、あるいは、団信には加入せずに「フラット35(買取型)」を活用することなどを検討してはいかがでしょうか。

団信は、住宅ローン返済中の万が一の際のセーフティネット

団信とは、住宅ローンを借りる際に、住宅ローンの契約者が被保険者、金融機関が契約者・保険金受取人となって加入する生命保険のことです。一般的に、団信に加入しておけば、住宅ローンの契約者が返済中に死亡または高度障害状態になった場合、保険会社から金融機関に支払われる保険金で、その時点の住宅ローンの残りが弁済されます。そのため、残された家族は、その後のローン返済の負担を背負わずにすみ、マイホームに引き続き住み続けることができます。団信は、住宅ローン返済中のセーフティネットの仕組みなのです。

一般団信は、住宅ローン契約者の死亡・所定の高度障害状態・余命6ヶ月以内と判断された場合などを保障します。なお、一般団信は、「フラット35(買取型)」を除くほとんどの住宅ローンの契約条件の一つとなっており、加入できない方は、住宅ローンを借りることができません。一般団信に加入できる場合、その保険料は金融機関が負担するため、住宅ローンの契約者が負担する必要はありません。

近年は、一般団信に、所定のがん・急性心筋梗塞・脳卒中の三大疾病や、その他の生活習慣病など、金融機関によってさまざまな保障のオプションを付けて保障の範囲を拡げることができるようになっています。オプションを付ける場合は、定額、あるいは、上乗せ金利などの形で、住宅ローンの契約者がオプション分の保険料を負担する必要があります(無料にしている金融機関もあります)。

一般団信に加入するときの健康状態・過去の傷病歴の告知事項は?

一般団信の加入にあったっては、健康状態等の告知をする必要があります。なお、住宅ローンの借入額が一定額を超える場合は、医療機関の診断書等を求められる場合があります。

健康状態等の告知例として、「フラット35(買取型)」の新機構団信の告知書(一部抜粋)を見てみましょう。

1 本日より最近3ヶ月以内に医師の治療(診察・検査・指示・指導を含みます)・投薬を受けたことがありますか。
2 本日より過去3年以内に以下の病気で手術を受けたこと、または2週間以上の期間にわたり医師の治療(診察・検査・指示・指導を含みます)・投薬を受けたことがありますか。
心臓・血圧 狭心症・心筋梗塞・心臓弁膜症・先天性心臓病・心筋症・高血圧症・不整脈
脳・精神・神経 脳卒中・脳動脈硬化症・精神病・神経症・てんかん・自律神経失調症・アルコール依存症・うつ病・知的障害・認知症
肺・気管支 ぜんそく・慢性気管支炎・肺結核・肺気腫・気管支拡張症
胃・腸 胃かいよう・十二指腸かいよう・かいよう性大腸炎・クローン病
肝臓・すい臓 肝炎・肝硬変・肝機能障害・すい炎
腎臓 腎炎・ネフローゼ・腎不全
緑内障・網膜の病気・角膜の病気
新生物 がん・肉腫・白血病・しゅよう・ポリープ
右記にかかげる病気 糖尿病・リウマチ・こうげん病・貧血症・紫斑症
3 以下に該当する事項がありますか。
◇矯正しても左右いずれかの視力が0.2以下
◇聴力、言語、そしゃく機能の障害
◇手、足、指の欠損や機能障害
◇背骨(脊柱)の変形や障害

上記にあてはまる事項があれば、病気やけがの名前、障害内容、治療期間、入院の有無や期間、現在の症状、検査結果など、詳細を記入するようになっています。

なお、あてはまる事項があっても、団信に加入できないわけではありません。最終的には、保険会社が、告知内容をもとに団信の引き受けの可否を判断します。

告知事項にモレがある場合には、告知義務違反とみなされ、保険契約が解除されて保険金が支払われない場合があるため、ありのまま正直に告知する必要があります。

団信の加入審査が不安な場合の選択肢は、「ワイド団信」や「フラット35(買取型)」

持病があるなど、健康状態に不安がある方は、「ワイド団信」を取り扱っている金融機関からの借り入れを検討してはいかがでしょうか。ワイド団信とは、一般団信よりも引受条件を緩和した団信のことで、持病や既往症など、健康上の理由を抱えている人でも加入しやすい団信です。ただし、健康上の理由がある人すべてが加入できるわけではありません。保険会社の加入審査によっては、加入できない場合があります。また、一般団信よりもリスクの高い方が加入できる生命保険であるため、加入する人は、住宅ローンへの上乗せ金利などの形で保険料を負担する必要があります。

団信に加入せずに「フラット35(買取型)」を活用する方法もあります。「フラット35(買取型)」とは、独立行政法人住宅金融支援機構が民間の金融機関と提携して提供している住宅ローンのことで、団信への加入は任意となっています。したがって、健康上の理由などで団信に加入できない方でも、住宅ローンを借りることができます。団信に加入しない場合は、「フラット35(買取型)」の通常の金利よりも0.2%低い金利が適用され、負担が軽減されます。しかし、住宅ローンの契約者が万が一亡くなったときに、遺族が返済負担を背負うことになることには充分に注意する必要があります。

住宅ローンの返済中に契約者が死亡するなど、万が一の事態に陥ることで、将来遺族に負担をかけないためにも団信には加入したほうがいいでしょう。健康状態等の理由で団信の加入審査が不安な方は、まず、一般団信(オプション含む)への加入の可否を確認し、加入できない場合にワイド団信への加入、あるいは、団信に加入せずに「フラット35(買取型)」を活用することを検討してみてはいかがでしょうか。

【参考リンク】

私が書きました

中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。FPオフィス・ワーク・ワークス 代表。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2021年01月08日