第894回
郊外への移住を検討中。住宅ローンはどうなる?
- 新型コロナ問題が起きてからのリモートワーク導入で、毎日通勤しなくてもよくなったので、郊外への移住を考えるようになりました。現在の自宅にまだ住宅ローンが残っているのですが、移住する場合はどうなるのでしょうか。(神奈川県 Tさん)
- 住宅ローンは「自宅」取得を資金使途とする場合に利用できるローンです。移住して住まなくなれば「自宅」ではなくなるので、借入金融機関に相談を。移住に伴って自宅を売却したいのか、保有し続けたいのかを、まず考えてみてください。
移住後、現在の自宅は売却したい?保有を続けたい?
リモートワークを導入する企業が増え、郊外への移住を考える方も増えているようですね。今までの住まいが社宅や賃貸なら、移住先の住まいについてだけを考えればいいわけですが、ローン返済中の自宅にお住まいの場合には検討すべきことが多くなりますね。
移住後、現在の住宅ローンをどうするかは、現在のお住まいをどうしたいのかによって変わってくるでしょう。「売却して心機一転移住したい」「万一移住がうまく行かなかった場合に戻ってくることができるように保有しておきたい」「便利な場所にあるので賃貸物件にして家賃収入を期待したい」等、ローンをどうするのかを考える前に、移住生活を含めた将来の生活を思い描き、現在の自宅をどうするのかを考えてみてください。自宅の売却・保有といった希望が見えてきたところで、ローンについても考えていきましょう。
住宅ローンは、「自ら居住するための不動産」を購入・建築するためのローン
住宅ローンは、「自ら居住するための不動産」を購入・建築するためのローンです。したがって移住するとその家は「自ら居住するための不動産」ではなくなり、資金使途が変わることになるので、借入先金融機関に相談することが必要です。
住宅を売却するのなら、自己資金あるいは自宅の売却代金でローンを一括返済することになります。ローン返済を続けて自宅を保有し続けたい場合には、借入先金融機関の判断によりますが、不動産担保ローン(不動産を担保に融資が受けられるローン)や賃貸物件用のローンへの切り替えなどが求められ、金利負担が重くなる可能性もあります。
なお、住宅借入金等取得控除の適用を受けている方は、移住すると自宅を離れることになるので適用を受けられなくなります。また、住宅借入金等取得控除は、主として居住する1つの住宅にのみ適用されますので、二重で申請はできません。
今まで住んできた自宅を売却し、移住先で住宅購入するなら
今まで住んできた住宅が、住宅ローン残高よりも高く売れるのであれば、売却代金でローンも一括返済できますね。移住先で住宅購入することにして新たに住宅ローンを組む場合には、移住者向けのローンを検討してもよいでしょう。地方の金融機関では、移住者向けに金利などを優遇したローン商品を用意しているところがあるので、チェックしてみましょう。また支援金や補助金を拠出している自治体もあります。移住先の役所のホームページから事前に確認してみましょう。
自宅の売却価格がローン残高に足りない場合には、「住み替えローン」の利用も考えられます。「住み替えローン」は、新たな住宅の購入資金に加えて、現在の自宅の売却代金だけでは返済しきれない住宅ローン債務の返済資金も借入れできるローンです。
ただし、「住み替えローン」は、通常の住宅ローンよりも金利は高めで審査基準も厳しくなります。自宅の売却価格がローン残高に対して低い場合は、割高な金利の住み替えローンの借入額が膨らむことになります。自宅の売却と新居の購入の手続きを同時に進めていくことになるので、スケジュールも慌ただしくなるでしょう。移住先の生活に馴染んでから新居購入を考えたい場合には向きませんね。住み替えローンの利用は、移住先での住居をどうしたいのかも慎重に考えて検討しましょう。
今まで住んで来た自宅を賃貸にして、ローン返済に充てる
自宅を売却せず保有したままで賃貸にすれば、家賃収入をローン返済や固定資産税等の住宅を保有するための諸費用に充てることもできます。その場合は、金融機関の判断によっては、住宅ローンを賃貸物件用のローン等に切り替えることになる場合もあります。
ただし、安易に賃貸に踏み切ると、借り手がなかなか見つからなかったり、思わぬ修繕費用がかさんだりして、思ったような家賃収入が得られず、ローン返済が滞ってしまうかもしれません。借り手が見つかりやすい環境・物件なのか、周辺の相場からいくらの家賃なら妥当なのか、いくらの家賃であればローン返済や経費をまかなうことができるのか等、賃貸物件にする前に慎重に検討・試算しておきましょう。
現在の住まいをどうするのかの選択肢には売却・保有・賃貸等があり、どの選択肢を選ぶかで、ローンをどうするのかも変わってきます。しかし、売却を希望していても希望の価格で売れそうになかったり、賃貸に出したくても借り手が見つかりにくい物件だったりする場合もあります。その場合は、取り得る手段で最適なものを、再度検討する時間も必要になります。移住先での生活を早く始めるためにも、自宅とローンをどうするのかは早めに考え、動き出したほうがよいでしょう。
私が書きました
ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。
大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。
※執筆日:2020年10月07日