第828回

老後の資産形成、できる事から確認し準備

メディアで「老後資金不足」が話題になっているのをみて、不安になってきました。 公的年金だけでの生活は難しそうですし、老後資金の準備は何から始めるとよいでしょうか。(山口県 H)
「ねんきん定期便」などを参考に、受給見込額を現在の家計から老後の生活資金を予測し、貯める方法を工夫してみましょう。

老後に必要な資金額は人それぞれ

2019年6月、金融庁の「老後資金が2,000万円不足する」という報告書が話題になりましたね。 報告書はモデルケースから試算したものなので、老後資金は誰もが2,000万円不足するわけではありません。 ただし、多くのご家庭では老後の生活資金を公的年金のみに頼ることは難しく、現役世代の内に老後資金の準備をしておくことが必要です。 公的年金でまかないきれない老後資金額が、貯蓄や運用などの自助努力で準備すべき老後資金額、ということになります。

したがってまず把握したいのは、老後の収入の柱となる公的年金の受給予想額と、老後の必要生活資金額です。 公的年金の受給額は加入してきた年金制度によって、またどれくらい年金保険料を払ってきたかによって決まり、受給金額はそれぞれ異なります。 毎年の誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」には年金加入期間や加入実績に応じた受給見込額が記載されています。 日本年金機構のホームページでは年金見込額の試算もできるので、まずは受給見込額を確認してみましょう。

老後は今より質素な生活に・・・は難しい

年金受給見込額がわかったら、次に把握したいのは老後の必要生活費です。 データとしては、「生活保障に関する調査(生命保険文化センター)平成28年」による夫婦二人の老後に必要な「最低限の生活費22万円」「ゆとりある老後に必要な生活費34.9万円」がよく挙げられますが、実際にはかかる生活費の額は家庭によって大きく異なるはずです。 データによる生活費の月額が22万円だからといって、現在月額40万円の生活費がかかるご家庭が、老後に月額22万円で暮らすことはよほど頑張らないと難しいでしょう。 「老後」は現在の生活の延長上にあるものですから、現在の生活費をもとに「我が家の場合」の予測をしておきたいものです。

借り換えや繰上返済で、利息を節約すれば、老後資金へ振り向けることも

老後の必要生活費の額(月額)から年金受給見込額(月額)を差し引けば、一月あたりの不足する老後生活資金の目安がわかります。 「老後」を60歳から85歳までの25年間とすると毎月不足する額が5万円なら、25年分で1,500万円になります。

表1 老後資金の不足額の合計
毎月不足する額 1年間に不足する額 25年間で不足する額
3万円 36万円 900万円
5万円 60万円 1,500万円
10万円 120万円 3,000万円

この「不足する額」を老後資金として準備していくことになります。老後資金に限らず、確実に貯蓄を殖やしていくには、「先取り貯蓄」が有効です。給与が支給されたら、使う前に給与天引きで財形貯蓄や積立預金等をはじめられるとよいでしょう。 運用期間が長く取れるのであれば、値動きのリスクを理解した上で資金の一部は投資信託などの金融商品を利用されるのもよいでしょう。 早期解約すると元本割れの可能性もありますが、返戻率を確かめた上で、個人年金保険などの保険商品を利用してもいいかもしれません。

さらに家計の無駄を見直して、浮いたお金を老後資金準備に回すことも考えられます。 たとえば、住宅ローンやクルマのローンなどを繰上返済したり、有利なローンに借り換えすれば、利息負担を減らすことができ、今まで返済に回していたお金を老後資金のための積立貯蓄に回すこともできます。 子どもが大きくなるにつれ、過大な保障が不要になってきた時点で解約したり減額したりすれば、家計の中で負担の大きい生命保険料も減らすことができ、浮いた分を老後資金に回すこともできるでしょう。

公的年金だけでまかなえない老後資金の額は、数百万円~数千万円にも及ぶので、一朝一夕には準備できませんが、家計の見直しや無理のない金額からの積立貯蓄など、できることから少しずつ、老後資金の準備を進めていきたいですね。

【参考リンク】

私が書きました

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※執筆日:2019年06月25日