第824回
住宅ローン減税の減税期間(控除期間)が13年間に拡充されることの影響は?
- 2019年10月からの消費税率10%へのアップに伴い、住宅ローン減税が拡充されることが決まったと聞きました。 現在、マイホームの購入を具体的に考えているのですが、消費税率8%のうちに購入するのと、10%になってから購入するのとでは、どちらが得なのでしょうか?(会社員 男性 35歳)
- 消費税率10%の住宅を取得する場合は、住宅ローン減税制度の減税期間(控除期間)が3年延長され、13年になることが決定しました。 これから住宅の売買契約等を締結する場合、消費税率は、住宅の引き渡しが2019年9月末までだと8%、10月以降になると10%が適用されます。 減税期間が13年に延長された場合の影響額をシミュレーションしてみましょう。
今から売買契約等を結ぶ住宅でも、引き渡しが9月までであれば、消費税率は8%
2019年10月から、消費税率は現在の8%から10%に増税される予定です。 政府は、増税後の景気後退を防ぐための経済対策のひとつとして、住宅ローン減税制度の拡充を決めました。
一時的に、減税期間(控除期間)を3年延長して13年にすることで、消費税の増税による負担増を、所得税等の減税額(控除額)を多くして軽減し、住宅市場が冷え込むのを防ごうとしています。
なお、今から売買契約等を締結する場合でも8%の住宅を取得することは可能です。 2019年9月までに引き渡される物件であれば、8%の消費税率で取得できます。 一戸建て注文住宅の場合は、設計や建築に一定期間が必要なため、これからだと引き渡しは10月以降になる可能性が高く、10%の税率が適用されそうですが、建売一戸建てや完成済のマンション等であれば、9月末までに引き渡しを受ければ税率8%で取得できます。
なお、中古住宅を個人から購入する場合には、消費税はかからず、非課税(0%)です。
消費税率8%の住宅の場合、住宅ローン減税の減税期間(控除期間)は従来通り10年
消費税率8%で住宅を取得する場合の住宅ローン減税制度は、従来と変わらず、以下の通りです。 取得後10年間に渡って、各年の年末の住宅ローン残高(4,000万円限度)の1%相当額が、住宅ローン契約者の所得税等が控除されます。
居住年 | 控除期間 | 住宅ローン等の 年末残高(A) |
各年分の 住宅ローン 控除額 |
最大控除額 (10年合計額) |
対象税 |
~2021年12月 | 10年 | 4,000万円 | (A)×1.0% | 400万円 | 所得税 |
※所得税から控除しきれない部分は、その年の所得税の課税総所得金額等の額の7%(最高136,500円/年)を限度として、翌年の住民税額から差し引く。
※長期優良住宅、低炭素住宅の場合は、住宅借入金等の年末残高(A)が5,000万円、最大控除額(10年合計額)が500万円になります。
※その他、細かい条件が定められています。
消費税率10%の住宅を取得し、減税期間(控除期間)が13年に延長されるとどうなるか?
居住年 | 控除期間 | 住宅ローン等の 年末残高(A) |
各年分の 住宅ローン 控除額 |
最大控除額 (10年合計額) |
対象税 |
2019年10月~ 2020年12月 |
10年 | 4,000万円 | (A)×1.0% | 400万円 | 所得税 |
11年目~13年目 | 以下の(1)、(2)のいずれか少ない方の金額が控除される。 (1)住宅ローン等の年末残高(上限4,000万円)×1% (2)建物の取得価格(上限4,000万円)の2%÷3 |
※所得税から控除しきれない部分は、その年の所得税の課税総所得金額等の額の7%(最高136,500円/年)を限度として、翌年の住民税額から差し引く。
※長期優良住宅、低炭素住宅の場合は、住宅借入金等の年末残高(A)が5,000万円、最大控除額(10年合計額)が500万円になります。また、建物の取得価格の上限が5,000万円になります。
※その他、細かい条件が定められています。
上表では、消費税率8%の場合との違いを赤字で記載しています。
「居住年」を見ると、消費税率10%の住宅の取得をしても、2020年12月までに入居した住宅にしか拡充した制度は適用されないことがわかります。 2021年1月以降に入居した場合は、消費税率8%の場合と同じに戻ります。 つまり、今回の制度拡充は、あくまで約1年間の短期的で一時的な措置ということになります。
参考までに、個人から中古住宅を購入する場合など、消費税が非課税(0%)の住宅を取得する場合の住宅ローン減税制度は以下の通りです。 住宅ローン等の年末残高の限度額が2,000万円となっており、消費税率8%の場合と比べ、減税枠(控除幅)が低く抑えられています。
※参考※
居住年 | 控除期間 | 住宅ローン等の 年末残高(A) |
各年分の 住宅ローン 控除額 |
最大控除額 (10年合計額) |
対象税 |
~2021年12月 | 10年 | 2,000万円 | (A)×1.0% | 200万円 | 所得税 |
※所得税から控除しきれない部分は、その年の所得税の課税総所得金額等の額の5%(最高97,500円/年)を限度として、翌年の住民税額から差し引く。
※長期優良住宅、低炭素住宅の場合は、住宅借入金等の年末残高(A)が3,000万円、最大控除額(10年合計額)が200万円になります。
※その他、細かい条件が定められています。
[事例]消費税率8%と10%での増税額と住宅ローン減税制度での減税額(控除額)
【条件】
●住宅の価格・建物部分:2,500万円(消費税抜き)
・土地部分:1,500万円
●頭金:1,000万円
●住宅ローン
・借入額:3,000万円
・金利:1.50%(固定金利)
・返済期間:35年
・元利均等返済方式
※住宅ローン契約者の各年の収入は、各年分の住宅ローン控除額を超える所得税が払える水準があるとする。
※住宅ローンの繰上返済は行わないこととする。
・消費税の増税額(2%分)の計算
住宅の建物部分の価格2,500万円に消費税がかかります。
消費税率8%の場合の消費税額は200万円、10%の場合は250万円となり、2%分の増税額は、50万円です。
消費税率8% | 消費税率10% | 増税額(2%分) | |
消費税額:2,500万円×税率 | 2,000,000円 | 2,500,000円 | 500,000円 |
・住宅ローン減税の減税額(控除額)の計算
下の表の通り、消費税率8%でも10%でも当初の10年間の減税額(控除額)の合計は2,621,200円です。
消費税率10%の場合は、減税期間(控除期間)が3年間延長されるため、11年目から13年目の減税額(控除額)が加わります。 具体的な金額は、各年において、「年末ローン残高の1%相当額」と「消費税の増税額÷3」の少ない方が実際の減税額になるため、この事例では「消費税の増税額÷3」の合計499,800円(約50万円)です。 つまり、消費税率10%の場合の減税額(控除額)は、2,621,200円+499,800円=3,121,000円になります。
各年の控除額 | |||
消費税率8% | 消費税率10% | ||
1年目 | 293,400円 | 293,400円 | |
2年目 | 286,700円 | 286,700円 | |
3年目 | 279,900円 | 279,900円 | |
4年目 | 273,100円 | 273,100円 | |
5年目 | 266,100円 | 266,100円 | |
6年目 | 259,000円 | 259,000円 | |
7年目 | 251,800円 | 251,800円 | |
8年目 | 244,500円 | 244,500円 | |
9年目 | 237,100円 | 237,100円 | |
10年目 | 229,600円 | 229,600円 | |
1~10年目までの合計 | 2,621,200円 | 2,621,200円 | |
年末ローン残高 の1%相当額 |
消費税の増税額 (50万円)÷3 |
||
11年目 | 222,000円 | 166,600円 | |
12年目 | 214,200円 | 166,600円 | |
13年目 | 206,400円 | 166,600円 | |
11~13年目までの合計 | 642,600円 | 499,800円 | |
1~13年目までの合計額 | - | 3,121,000円 |
・消費税率8%と10%との負担額の比較
消費税率8% | 消費税率10% | |
消費税額 | +2,000,000円 | +2,500,000円 |
住宅ローン減税制度の減税額(控除額) | ▲2,621,200円 | ▲3,121,000円 |
合計額 | ▲621,200円 | ▲621,000円 |
上表からわかる通り、この事例の場合、消費税率10%の場合でも、住宅ローン減税制度の減税期間(控除期間)の延長によって、増税額を減税額が相殺して、消費税率8%の場合と変わらない結果となりました。
なお、購入する物件の価格や、住宅ローンの借入額、適用金利、返済期間、契約者の年収(税額)、返済中の住宅ローンの繰上返済の状況等によって結果は異なります。 また、住宅ローン減税制度には、住宅の条件、適用を受ける人の条件、住宅ローンの条件など、さまざまな条件が細かく設定されているため、確認が必要です。
今回の消費税率アップの住宅関連の経済対策には、「住宅ローン減税制度の拡充」の他にも、「すまい給付金制度」や「次世代住宅ポイント制度」などが用意されています。 これらの制度の適用が受けられるかなどについてもしっかりと確認し、有利な仕組みをうまく活用するようにしましょう。
私が書きました
ファイナンシャル・プランナー。FPオフィス・ワーク・ワークス 代表。
教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。
※執筆日:2019年04月18日