第823回

税制改正で、後継者の承継時の税負担がゼロに

個人で事業を営んでおり、事業承継が気になっています。 税制改正で、事業承継の税金負担が軽くなる制度ができたと聞きましたが、どんな制度ですか(埼玉県 T)
事業用の宅地、建物などにかかる相続税・贈与税額の納税が猶予される制度です。

個人事業者の事業承継税制が創設

後継者問題に悩む個人事業主や中小企業はニュース番組等でもよく取り上げられますね。問題になるのは、まず後継者を誰にするのか、誰が事業を継ぐのかということです。 いかに会社の事業や資金面での負担なく事業を引き継ぐかも大きな課題です。後継者問題を資金面で後押しするものとして、 2019年度の税制改革で、個人事業者が事業承継を行う際の税負担をゼロとする制度が、10年間の時限措置として創設されました。

この制度は2019年1月1日から2028年12月31日までの相続または贈与について適用され、現行の「事業用小規模宅地特例」との選択適用となります。

対象資産に対する相続税・贈与税を100%猶予

事業承継の際には、事業に関係する土地・建物や機材等を後継者に引き継ぐことになりますが(生前に引き継ぐなら「贈与」、死後に引き継ぐなら「相続」)、 贈与なら贈与税の、相続なら相続税の納税義務を後継者は負うことになります。

しかし、この個人版事業承継税制を適用すると、下表のような事業用資産について、適用対象部分の課税価格の100%に対応する相続税・贈与税額が猶予されます。 贈与税も対象とする制度なので、生前贈与による事業承継の準備に活用することができます。

表 個人版事業承継税制の対象となる事業用資産
・土地・建物(土地は400m2、建物は800m2まで)
・機械・器具備品(例:工作機械・パワーショベル・ガソリン給油機・冷蔵庫・診療機器等)
・車両・運搬具
・生物(乳牛等、果樹等)
・無形償却資産(特許権等)

承継計画の提出や事業の継続などが要件

この制度の適用を受けて納税を猶予されるためには、2019年度から5年以内に予め承継計画を都道府県に提出しなければなりません。 後継者は承継計画に記載された人になります。 さらに、後継者が死亡するまで事業を継続し、資産を保有するなどの条件を満たせば納税は免除されます。

終身の事業・資産保有などの継続要件を満たせなくなった場合には納税の猶予が受けられなくなります。 しかし、緩和措置が設けられており、後継者の死亡や一定の重度障害、一定の災害の場合には猶予税額が免除されます。 また、経営悪化などで廃業することになったり、適用対象資産を譲渡したりする場合には、 その時点での資産額で贈与・相続税額を再度計算して納税することとなり、事業承継時の猶予税額と再度計算した額との差額は納税が免除されます。

事業承継税制は対象となる資産に対する贈与税・相続税の納税が猶予される制度なので、対象となる土地・建物や機械設備が高額になる会社にとっては特にメリットが大きいでしょう。 ただし、この制度は10年間の時限措置です。事業承継を考えられているなら、早めに準備を進めたほうがよいでしょう。

また、事業承継の際には、相続税・贈与税は猶予されたとしても、旧債務の借換え資金や追加の設備投資などの資金需要も考えられます。 公的融資やビジネスローンについても、合わせて情報をあつめておきましょう。 最近では代表者の個人保証をとらない事が多くなってきていますが、旧債務の場合では個人保証が残っている事もあると思います。 その場合手続き等で時間や手間がかかる事も考えられる為、急ぎで資金調達が必要となる際は、無担保のビジネスローンの利用も検討してみましょう。

【参考リンク】

私が書きました

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※執筆日:2019年04月19日