第806回
住宅ローンの借り換えは、目的を決めて実行!
- 10年前に住宅を取得し、現在も住宅ローンの返済をしています。 金利タイプは変動金利です。 最近、銀行の住宅ローンのサイトを閲覧していると、同じ変動金利タイプでも、返済中の金利より低い金利を提示している金融機関がたくさんあり、借り換えをしたほうがいいかもしれないと考えています。 借り換えをするときの注意点などがあれば、教えてください。(会社員 男性 45歳)
- 近年は、金融機関の金利引き下げ競争が激化し、同じ変動金利タイプでも、現在返済中の金利は1%を上回っているのに、別の金融機関から新規で借りる場合は1%を下回るケースがよくあります。 今より低い金利になるなら、借り換えをしたほうがいいかもしれません。 ただ、借り換えには諸経費がかかるため、金利の比較だけでなく諸経費を含めた効果を事前に確認することが大切です。 また、現在の金利タイプが変動金利であれば、将来の金利上昇リスクを回避するために、固定金利タイプへの借り換えを検討してもいいかもしれません。
住宅ローンの借り換えは、住宅ローンを見直す代表的な手法
住宅ローンの借り換えは、繰上返済と並び、住宅ローンを見直す代表的なやり方です。 借り換えとは、現在返済中の金融機関から、別の金融機関に住宅ローンを切り換えることです。 別の言い方をすると、新しい金融機関から新規に住宅ローンを借り入れ、そのお金を使って現在の住宅ローン残高を全部繰上返済することです。 その結果、新しい金融機関の住宅ローンだけが残り、新たな住宅ローン返済がスタートします。
今より低金利の住宅ローンに借り換えをすると、毎月の返済額を軽減することができます。 軽減できた額を、生活費や子供の教育費に充当してもいいでしょうし、積み立て貯蓄に充てて将来のライフイベント費用の準備をしてもいいでしょう。 借り換えをしなければ将来負担する予定だった利息額を減らすことができるため、借り換えには家計の見直し効果が期待できます。
借り換えは、将来の金利上昇リスクによる返済額のアップを回避する目的で、変動金利タイプの住宅ローンから固定金利タイプの住宅ローンに変更するやり方もあります。 なお、この変更は、わざわざ借り換えをしなくてすむケースもあります。 なぜなら、返済している最中に変動金利タイプから固定金利タイプに変更できる金融機関がたくさんあるからです。 ただ、他の金融機関の金利のほうが低くて有利な場合は、借り換えを検討したほうがいいかもしれません。
いずれにしろ、借り換えをする前に、「何の目的で行うのか?」をしっかり検討する必要があります。 低金利の住宅ローンに借り換える判断は、効果が金額でわかるので簡単です。一方、変動金利タイプから固定金利タイプへの借り換えは、ほとんどの場合、高い金利への変更になるため、判断が難しいでしょう。 その理由は、将来市場金利が上向いて、やがて変動金利タイプの金利が固定金利タイプの金利を上回り、返済額がアップする可能性が高いと予想しても、実際にはどうなるかわからないからです。
変動金利タイプから変動金利タイプへの借り換えでも返済額軽減効果がある!?
返済中の変動金利タイプの住宅ローンの金利は1%を上回っているのに、別の金融機関で新規借り入れをする場合、同じ変動金利タイプでも金利が1%を下回っている住宅ローンは、現在たくさん提供されています。
その理由は、近年、金融機関どうしの金利の引き下げによる顧客獲得競争が激化しているからです。 店頭表示金利は同じでも、金融機関によって独自に金利を引き下げ、実際の適用金利を低くしているのです。
今よりも借り換え後の金利が低くなれば、返済額が軽減できておトクになりそうですが、実際は、そうともいえません。 なぜなら、借り換えには諸経費がかかるからです。
新規に住宅ローンを組むことになり、主に以下の経費がかかります。
・抵当権の抹消と登録に伴う登録免許税と司法書士に払う登記手数料
・融資事務手数料
・保証料
・団体信用生命保険料
金利差とこれらの経費を合わせた効果を試算して判断する必要があります。
一般的に、借り換え判断の目安は、以下の3つの条件のいずれかにあてはまる場合だと言われています。
・返済残期間が10年以上
・金利差が1%以上
ただ、実際には、具体的にシミュレーションをしてみないと判断できません。 簡単な方法は、インターネットサイトなどで気になる金融機関の住宅ローン商品が見つかった時に、その金融機関に現在の住宅ローンの返済条件を示し、諸経費を含めた借り換え効果を試算してもらうことです。
金利上昇リスクの回避を目的に、変動金利タイプから固定金利タイプに借り換える?!
固定金利タイプは、借り入れた時の金利が返済中に変わらず、毎月の返済額も変わりません。 一方、変動金利タイプは、半年に1度見直され、市場金利が上昇すると住宅ローンの金利も上がり、返済額がアップします。
同時期の変動金利タイプと固定金利タイプの金利を比べると、変動金利タイプのほうが低く、固定金利タイプのほうが高く設定されているのが普通です。 そのため、借り入れ時には、変動金利タイプが魅力的に映ります。
しかし、返済中に市場金利が上がると、変動金利タイプの金利は上昇し、やがて固定金利タイプの金利を上回る可能性があります。 住宅ローンの返済は、何十年もの長期に渡るものだけに、経済情勢によって、市場金利が変動する可能性があることは認識しておく必要があります。
なお、現在は歴史的な低金利と言われています。 変動金利タイプよりは高いものの、固定金利タイプの金利も過去に例のないほどの低水準にとどまっており、これ以上下がる可能性は低いとも考えられています。 であれば、今のうちに、変動金利タイプから固定金利タイプに借り換え、将来の金利上昇リスクを回避するという考え方もあります。
ここで、それぞれの金利タイプの決まり方について触れておきましょう。 変動金利タイプは短期金利に連動して決まります。 短期金利の水準は、日本銀行が金融政策によって誘導するものです。 一般的に、景気が上向いて物価が上昇すると、日本銀行が金融政策を変更し、短期金利が上昇します。 ちなみに、現在、日本銀行は、物価上昇率2%を目標に掲げて金融政策を行っており、目標の達成が見込まれる場合に、金融政策を変更するとしています。
一方、固定金利タイプは、長期金利(10年満期の国債の利回り)に連動して決まります。長期金利はマーケットでの取引で決まり、日々刻々と変化します。 住宅ローンの金利は、一般的に月ごとに決定、公表されますが、固定金利タイプの金利は、前月の長期金利の動向を元に当月の金利が決定されます。
変動金利タイプから固定金利タイプへの借り換えは、変動金利タイプの金利が上昇に転じた後に、固定金利タイプに切り換えればよいと思いがちです。 しかし、変動金利タイプの金利が上昇しそうな経済情勢だとマーケットが判断すると、固定金利タイプの金利は、変動金利タイプよりも前に上昇する傾向があります。 そのため、借り換えのタイミングを決めるのは、実際にはなかなか難しいでしょう。
繰上返済の原資が潤沢にあるなら、金利上昇リスクは怖くない
金利が上昇したときに、繰上返済を積極的に行い、住宅ローン残高を大きく減らすことができるゆとりのある家計は、金利が上昇しても怖くありません。 金利が倍になっても、繰上返済をして住宅ローン残高を半分にできれば、1年間に支払う利息額は変わらないからです。変動金利タイプでの返済を継続しても問題ないでしょう。
しかし、金利が上昇した場合に、繰上返済をするまとまった貯蓄がない家計や、毎月返済額がアップしてやりくりに苦労する家計では、 超低金利の今のうちに固定金利タイプへの借り換えを行っておいたほうがいいかもしれません。
以上、見てきたように、借り換えにはさまざまな考え方があります。 まずは、目的を決めること。返済額の軽減が目的の借り換えをする場合は、諸経費を含めた効果を、シミュレーションをして具体的な金額で把握することが大切です。 将来の金利上昇リスクによる返済額のアップを回避する目的で借り換えをする場合も、できるだけ有利なものを選ぶため、事前に複数の商品を比較し、検討することが重要です。