第745回
リタイア後の出費に使える「リバースモーゲージ」とは
- 老後の年金生活が心配になってきました。 持ち家なので住むところには困りませんが、公的年金だけでは生活が苦しくなりそうです。 自宅を担保に老後資金を借りられる、高齢者向けのローンがあると聞きましたが、どんな制度ですか。 (埼玉県 Mさん 58歳)
- 高齢者向けのリバースモーゲージは、自宅を担保にお金を借り、死後に担保不動産の売却などで一括返済することができるローンです。
リバースモーゲージとは?
高齢者の方が、自宅不動産を担保にお金を借り、契約期間終了時(契約者死亡や転居などで担保不動産を売却するとき)に一括返済できる仕組みの「リバースモーゲージ」というローンがあります。
金融機関・商品によって異なりますが、利用できるのは大体55歳~65歳以上の高齢者の方です。 「不動産を担保にお金を借りる」という点は不動産担保ローンと同様ですが、大きく異なるのは、将来担保不動産を手放すことが前提になっている点です。
通常の不動産担保ローンなら、担保を手放すことのないように、元本と利子を毎月返済していきますよね。 担保を手放すのは、元利金の返済ができなくなったときです。 ところがリバースモーゲージの場合は、借入期間中は利子のみを返済。 元本の返済は原則として契約者死亡後に担保不動産の売却等により一括で行うことを前提としています。生前は利子のみの返済でいいので、毎月の返済負担が抑えられるというわけです。
リバースモーゲージの使い道は自由度が高く、住宅ローンの借り換えや自宅のリフォーム、冠婚葬祭の費用、老人ホーム等への入居資金、生活費の補填等、さまざまな用途で利用できます。 使い道が限られる商品もあり、使い道が自由の商品に比べ、金利は低めになっているようです。 当初に一括して資金を借り入れるタイプの他、融資限度額を設定して必要な都度借り入れできるタイプもあります。
したがって、リバースモーゲージを利用すれば、自宅に住み続けながら老後の必要資金を確保でき、生前は軽い返済負担で、収入の少ない老後の生活を維持することが可能になります。
不動産があればだれでも利用できるわけではない
ただし、リバースモーゲージは、不動産を保有していれば誰でも利用できるというわけではありません。
リバースモーゲージには、各自治体や社会福祉協議会が行う公的な制度と、銀行などの民間金融機関が取り扱う商品があります。
公的な制度のリバースモーゲージは、平成14年に創設された生活福祉資金(長期生活支援資金)の制度です。 一定の居住用不動産を保有する低所得の高齢者世帯(市町村民税の非課税世帯程度の世帯)を対象としており、実施主体は都道府県社会福祉協議会、申込窓口は市町村社会福祉協議会となっています。
生活福祉資金(長期生活支援資金)の概要については厚生労働省のホームページで確認してください。
リバースモーゲージを扱う民間の金融機関も全国に増えてきていますが、一般的に利用できる地域は金融機関の店舗のある地域に限定されています。 さらに、利用可能地域であっても、個々の不動産の条件によって利用できない場合もあります。
リバースモーゲージのリスクやデメリットは
生前の返済負担が少なく高額の借り入れも可能になるリバースモーゲージですが、「自宅を担保とした長期間の借り入れ」であり、「死後に一括返済」するゆえのリスクやデメリットがあります。
まず、長生きして借入期間が長期に及ぶと、担保価値に基づいた融資限度額では足りなくなる可能性があります。 多くのリバースモーゲージ商品は変動金利のため、金利上昇によって返済負担が重くなる可能性もあります。
また、借入期間中に担保不動産の価値が下落し、融資限度額が引き下げられるかもしれません。 融資限度額が見直されて少なくなり、借入残高が融資限度額を上回ることになると、超過した分のすみやかな返済が求められる場合もあります。
さらに、死後の一括返済のために担保不動産を手放すことになるので、相続人の間でトラブルになる可能性もあります。 夫婦で生活する自宅を担保にリバースモーゲージを利用していた場合には、契約者が亡くなると、配偶者は住むところを失うことになります(一定の条件を満たせば、配偶者が契約を引き継ぎ、住み続けられる商品もあります)。 リバースモーゲージの利用条件として、多くの場合「推定相続人の了承が必要」とされてはいますが、利用するリバースモーゲージの仕組みや手続方法などや相続について、配偶者や相続人となる方たちと相談し、意思を確認しておく必要があります。
「借入期間中の返済負担が少なく、担保不動産の売却等で死後の一括返済が可能」なリバースモーゲージですが、商品内容は金融機関や商品によって違いがあります。
まずは、お住まいの地域で利用できるリバースモーゲージの商品・金融機関を探してみましょう。 その上で、金利や融資条件など商品詳細を比較し、配偶者や相続人となる方々とも話し合って、ご利用をご検討ください。
私が書きました
ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。
大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。
※執筆日:2017年10月03日