第601回
2015年から相続税の増税にあわせて拡充される「小規模宅地等の評価減の特例」とは?
- 商店街で父と一緒に個人商店を営んでおり、店から少し離れたところにある一戸建てに、父と一緒に暮らしています。母はすでに亡くなっています。店も自宅も土地・建物は父親名義ですが、2015年から相続税が増税になると聞いているので、将来の相続が心配です。何か良い対応策はないでしょうか。(東京 自営業者 男性 52歳)
- 確かに2015年から相続税は増税になります。課税対象者が増えるとともに、税率もアップします。しかし一方では軽減策も拡充されます。相続税対策のやり方にはさまざまな方法がありますが、まずは軽減策の代表とも言える「小規模宅地等の評価減の特例」を理解した上で、必要があれば相続対策の具体案を税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
2015年1月の相続税増税と同時に拡充される「小規模宅地等の評価減の特例」
2015年1月から相続税が増税されることをさまざまメディアが頻繁に取り上げているため、相続税対策は一刻も早くしないと間に合わないのではないかという誤った印象を持っている方も多いのではないでしょうか。
実際に増税になるのは、2015年1月以降に亡くなった方の財産を相続する人にかかる相続税です。つまり、相続税対策は必要であれば、自分が被相続人になる時までにやればいいのです。
現在50代や60代など比較的若い方は、統計的には亡くなるまでに時間があるので、じっくり検討すればよいでしょう。一方70代以上の方は、真剣に取り組んだほうがよいでしょう。なかには、相続税が増税になることを知らない方もいるでしょうから、子供のほうから対策を親や親族に対して働きかける必要があるかもしれません。
今回の増税で最もインパクトがあるのが、基礎控除額(非課税枠)の縮小だと言われています。2014年までの基礎控除額は「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」ですが、2015年からは4割減の「3,000万円+法定相続人の数×600万円」に引き下げられます。
たとえば、亡くなった方の遺族(法定相続人)が2人の場合、2014年中に亡くなれば非課税枠は7,000万円ですが、2015年以降に亡くなると4,200万円になります。
この基礎控除額の縮小は、これまでなら相続税を払う必要のなかった人にも2015年からは納税の義務が生じることにつながります。
特に土地の相続税評価が高い都会で、相続財産の多くが土地・建物などの不動産の場合、納税額を工面するために不動産を売却しないといけなくなる事態が発生しかねません。不動産がたくさんあればよいのですが、それが自宅や店舗だけの場合などには、相続税を払うために住宅やお店を失う可能性があります。自分の財産から相続税を払えたとしても、家計には大きな負担がのしかかります。
そのような事態を防ぐために、2015年からは「小規模宅地等の評価減の特例」も拡充されることになりました。
「小規模宅地等の評価減の特例」によって相続税を払わなくてよくなるかも?
「小規模宅地等の評価減の特例」とは、相続等によって取得した事業用または居住用の宅地について、一定の面積までの評価額が大幅に減額される仕組みです。
宅地等 | 上限面積 | 減額割合 | ||
---|---|---|---|---|
事業用 |
事業用 |
事業継続 |
400平方メートル |
▲80% |
貸付事業用 |
貸付継続 |
200平方メートル |
▲50% |
|
居住用 |
居住継続 |
330平方メートル |
▲80% |
この仕組みによって相続した土地の評価額が大きく減り、亡くなった人の相続財産が基礎控除額の範囲におさまれば、遺族は相続税を払う必要がなくなります。そうならないまでも、支払う相続税の額を少なくすることができます。
「小規模宅地等の評価減の特例」では、店舗などの事業用の宅地の場合、400平方メートルまでの相続税評価額を▲80%も減額することができます。たとえば、店舗が建っている相続税評価額が1億円の土地を、2,000万円の評価額とみなすことができるのです。
自宅などの居住用も330平方メートルまでの相続税評価額を▲80%減額でき、賃貸アパートなどの貸付用は200平方メートルまでを▲50%減額することができます。
この特例の適用を受けるには、相続税の申告期限まで事業や居住を継続することが条件ですが、この仕組みがあるおかげで、相続税を払うために、その後の生活に必要な不動産を売却しなければならないような事態を避けることができます。
なお、相続税の増税と併せて2015年から「小規模宅地等の評価減の特例」が拡充されるポイントは、次の2点です。
・居住用宅地の上限面積の拡大
2014年までは240平方メートルですが、2015年以降は330平方メートルに拡大されます。
・居住用と事業用との完全併用が可能(貸付事業用は除く)
2014年までは居住用と事業用を併用する場合の上限面積は合計400平方メートルですが、2015年以降は、それぞれの上限までの合計730平方メートルに拡大されます。
なお、相続税に関する仕組みには、さまざまな細かい要件等が定められているので、自分の場合に具体的にどうなるか、については、税理士に相談してみるのがよいと思います。
相続税の納税が期限に間に合わない場合は、不動産担保ローンも検討!?
相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告、納税をする必要があります。税金は金銭で一度に納めるのが原則で、期限までに納めなかった場合は、利息にあたる延滞税がかかる場合があります。ちなみに、2014年12月31日までの期間について、納期限の翌日から2か月を経過する日までの延滞税は年2.9%、2か月を経過した日以後は、年9.2%となっています。
小規模宅地等の評価減の特例の適用を受けてもなお、相続税を払う必要があり、納税資金の確保が難しい場合で、短期間のうちに返済できるメドがあるなら、一時的に不動産担保ローンなどを借りて工面することなどを検討してはいかがでしょうか。