第829回

社会人が大学院への進学をするのに必要な準備は?

現在会社員として働いていますが、将来を見据え、大学院で学び直しをしてスキルアップ、キャリアアップを図りたいと考えています。大学院を選ぶ際のポイントや費用、注意点などを教えてください。(会社員 28歳 女性)
自分の将来のキャリアプランをしっかりと立て、やりがいのある仕事をしながら能力やスキルに見合った収入を得ていくことは、仕事と生活の双方を充実させていく上でとても大切です。 ただ、社会人が大学院に通う場合は、学ぶ内容だけでなく、履修形態や期間、場所、費用、現在の仕事や生活とのバランスなどを踏まえてじっくり検討する必要があります。

大学院で学び直すには、まず目的を明確化する!

わが国では、いまや終身雇用が当たり前ではなくなったと言われています。 雇用構造の変化に伴って、知識の習得やスキルアップも企業内教育だけに頼るのではなく、自らが大学院などの教育機関を利用して学び直すリカレント教育が注目されています。

大学院の中には、社会人経験を考慮した入学試験を実施し、社会人が学びやすい設備や施設、カリキュラムを揃えているところもあります。 これらを修了すれば、通常の大学院と同じように、修士号、博士号、専門職学位が授与されます。

仕事に活かすために大学院で学び直そうとするのであれば、まず目的を明確に決める必要があるでしょう。 たとえば、今働いている会社の仕事で活用するためか、あるいは転職を考えていて、自分の価値を転職先にアピールするためかの違いで、学ぶ内容や学び方などが変わってくる可能性があります。

目的を明確にすることの他に、大学院で学んだ後に仕事をしている自分の姿を鮮明にイメージすることも大切です。 目的を確固なものにすることや、ゴールを具体的にイメージすることは、学びを継続する上で大きなエネルギーになります。

「何を学ぶか?」を決めることも重要です。 客観的な立場から見て自分の価値を高めるものでなければなりません。 そうでなければ、学んだ成果が職場での処遇や報酬に反映されません。学ぶ内容を選ぶポイントは、一般的には、これまでの仕事の付加価値を高める分野が適していると考えられます。 ただ、法科大学院のように、どこに行っても通用する資格を取得するために学ぶのであれば、今の仕事と関係のない分野でもよいでしょう。

現在の仕事や生活と、学びを両立させるために検討すべきことは?

大学院で学ぶ目的や内容の他にもさまざまなことを検討する必要があります。学ぶには時間がかかります。場所の制約もあります。資金も必要です。現在の仕事や生活と学びを両立させるには、次のようなことも検討しなければなりません。

主な検討事項・必要情報
・履修形態(通学、通信)
 履修形態が通学だけの場合、学校の所在地は物理的に通える距離か?
・開講形態(土日、平日夜間、平日昼間 など)
 平日の仕事を終えたあとの夜間や土日に通学できるか?できないか?
・履修期間
 修了するのに数年かかるか?
・入学時期
 4月か?4月以外か?
・受験資格
 今までの学歴等が受験資格を満たしているか?
・試験科目
 入学試験には、どんな科目があるか?
・出願期間・試験日・合格発表日
 出願期間、入学試験日、合格発表日はいつか?
・学費
 初年度納付金はいくらか?2年目以降はいくらか?
など

これらの中の「履修形態(通学、通信)」、「開講形態(土日、平日夜間、平日昼間 など)」、「履修期間」、「入学時期」、「学費」などは、仕事や生活と両立を図る上でとても重要です。必要に応じて、職場や家族の協力を仰がなければなりません。

大学院で学ぶために、現在勤めている会社の休職や退職を考えている場合は、より慎重に進める必要があります。学費と生活費分をカバーできる充分な資金の準備があれば、休職や退職をしても問題ないかもしれません。 しかし、充分な資金の準備がなく、学んでいる間に貯蓄を取り崩す事態や借金をする事態になると、勉強に集中できなくなる可能性があります。

大学院にかかる費用は?どうやって工面する?

大学院にかかる費用について、初年度納入金は、国立大学が80万円~110万円程度、私立文系が80万円~180万円程度、私立理系が100万円~180万円程度、通信制は60万円~90万円程度です。 2年目以降は入学金がかからないので、この金額より15万円から30万円程度安くなります。なお、実際の費用は大学院によってまちまちです。 選ぶ過程で個々の大学のホームページなどで金額を確認しましょう。

仕事を続けて安定収入を得ながら学び、貯蓄と収入の範囲で学費がまかなえる場合はまったく問題ありません。

学費分が足りない場合でも、仕事を継続するのであれば、借り入れに頼ってもよいでしょう。 家計管理をしっかり行えば返済をすることも可能です。

なお、借り入れをする場合は、日本学生支援機構の奨学金制度が活用できます。 履修期間が終わってから返済がスタートするため、学んでいる間の負担が軽くてすみます。 また、独自の奨学金制度を持っている大学院への進学を検討している場合は、あらかじめ条件などを調べて活用してもいいでしょう。

もちろん、民間の教育ローンを活用することもできます。 金融機関によって条件が異なるため、できるだけ返済の負担が軽い条件のものを選ぶようにしましょう。

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私が書きました

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。FPオフィス・ワーク・ワークス 代表。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2019年06月27日