第395回

2010年のカードローン業界を振り返って

少し前のニュースで、「長期金利が下がって、住宅ローンなどの金利が過去最低水準」ということを伝えていましたが、カードローンやキャッシングの金利についてはどうなんでしょうか?
要因はさまざまですが、昨年と比べると各社のカードローンの金利は下がりました。今年のカードローン業界を振り返りながら確認してみましょう。

改正貸金業法完全施行後、消費者金融業者への影響は?

今年9月末、消費者金融大手の「武富士」が、東京地方裁判所に会社更生法を申請・受理されました。破たんのおもな原因は、過払い利息返還請求の増加等による業績と資金繰りの悪化ですが、これらの事情を抱えているのは他の消費者金融でも同じことで、11月上旬に発表された、消費者金融大手3社―プロミス、アイフル、アコム-の2010年9月中間連結決算において、売上高に該当する営業収益は3社すべて前年同期比で減収。プロミスとアコムが最終(当期)赤字となりました。
このような事態に陥ったのは、武富士破たんのように、過払い問題が重荷になったためですが、さらに、年収の3分の1を超える貸し付けを制限した「総量規制」の導入による融資残高の減少が大きいといえるでしょう。
過払い問題と改正貸金業法のダブルパンチを受けて、今年8月末の消費者・事業者向け融資残高は約12兆円。3年前の2007年8月末と比べると、約8兆円も減少(日本貸金業協会による)してしまいました。

返せるのに借りられない人々はどこへ…?!

一方、改正貸金業法は、消費者金融業界のみならず、借り手である利用者にも大きな波紋を広げています。
11月中旬、日本貸金業協会では、総量規制該当者等を対象に行ったアンケート調査を発表。これによると、希望通り借入れできない総量規制該当者の約8割が、衣料費、食費等の補てんなど日常生活を維持するための借入れを必要としており、個人事業主についても、約6割が事業資金の補てんを必要としていることが分かりました。
現在、消費者金融の利用者は約1,500万人いるといわれていますが、すでに年収の3分の1を超えているのは、その半数の750万人。もちろん、この中には返済能力がない多重債務者もいますが、それ以外にも、不況で失業したり、収入が減少したりしたため、借金生活を余議なくされている返済能力のある個人や個人事業主等も含まれており、前出のアンケート調査では、総量規制該当者の半数以上が、「返済が可能である」と回答しています。

銀行のカードローン低金利競争激化

このような状況の中、カードローンなどの個人向け無担保融資を強化させているのが銀行やクレジットカード会社です。大手消費者金融が融資減少の一途を辿る一方で、銀行では、改正貸金業法の総量規制の対象外であることを活かし、カードローンなどの金利を引き下げて顧客を囲い込む動きを激化させています。

以下の一覧表は、イー・ローンのキャッシング/カードローンで検索したもので、最低金利順にピックアップしています(無担保型のみ)これを見ると、この1年間で金利が大きく引き下げられた商品が多いことが分かります。
例えば、2003年以降、おまとめローンを積極的に展開している東京スター銀行「スターワン借換ローン」は、実質年率1.2%という群を抜いた低金利ですが、大手銀行の最低金利が5%程度であることから、住信SBIネット銀行「ネットローン プレミアムコース」の実質年率4.0%や、三井住友カード「三井住友ゴールドカード」の実質年率3.3%などは破格の低水準といえるでしょう。
また、新生銀行では、低金利で顧客獲得を伸ばしている住信SBIネット銀行や楽天銀行などのネット銀行に対抗すべく、今年7月から金利を年5.8%から年4.8%に引き下げ、さらに11月上旬には、総量規制該当者に新たな無担保ローン商品を今年度にも発売すると発表しています。

根本的な問題解決にはまだまだ遠い…

このように積極的に営業を展開している銀行ですが、金利が引き下げや融資額のアップなど融資条件が良くなったとしても、審査基準まで緩めているわけではありません。つまり、銀行が獲得に躍起になっているのは、返済能力があるにも関わらす、総量規制によって消費者金融では融資を受けられなくなった、いわば多重債務に陥っていない‘優良顧客’。
銀行等のカードローン商品の強化の背景には、総量規制該当者の救済やヤミ金の防止などがあるでしょうが、「消費者金融で借りられないから銀行で借りる」というのでは、多重債務者の借入抑制と逆行するという見方もできます。また、総量規制自体が意味をなさなくなるという問題点もあります。
そもそも、改正貸金業法施行の目的は、多重債務者問題にあったはず。確かに多重債務者は減少しているようですが、最近では、債務者が、消費者金融で借りられなくなった資金を求めて、ヤミ金や「クレジットカードショッピング枠現金化」を謳う違法な業者へシフトしているという新たな問題も出てきました。
多重債務者向けに自治体などが行っている「セーフティーネット貸し付け」制度もありますが、利用割合は5%にとどまっているようです。いずれにせよ、法改正の影響は大きく、根本的な問題解決への道はまだまだ遠そうです。年以降のカードローン業界の動きにも注意しておく必要があるでしょう。

私が書きました

黒田 尚子 (くろだ なおこ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)、第2種情報処理技術者、初級システムアドミニストレータ。

92年大学卒業後、日本総合研究所に入社。約5年3ヶ月間、システム開発に携る。退社後、98年ファイナンシャル・プランナーとして独立。 まったくの異業種からの転職のため、できるだけ幅広いテーマを手掛けるようにしている。雑誌・インターネットなどの連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などを行う。モットーは「夢をカタチに」。現在、夫1人&猫1匹と暮らす。

※執筆日:2010年11月26日