第46回

ビジネスローンで叶った移動販売オーナー。日々やりがいを感じます。

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東京都在住の杉本さんは、創業者を応援するローンを利用して移動販売車を購入。都内を回って他では食べられない“創作イタリアンご飯”を販売し、人気を集めています。

オーナーさんデータ
東京都 杉本さんご一家
家族構成
夫・純さん(37歳・自営業)、妻(40歳・主婦)
世帯年収
250~300万円(2016年の半年実績)
購入した車
マツダ・スクラム(同車を移動販売用に改造)
車の購入価格
230万円
利用ローン
多摩信用金庫 たましん創業支援特別融資「ブルーム」
金利
1年目固定金利1%、2年目以降変動金利3%(2016年4月実行)
ローン借入金額
300万円(運転資金などの事業資金)
借入期間
7年
毎月の返済額
約3万円

群馬県内や東京都内の複数のイタリアンレストランに約13年間勤務。腕を磨き続けた杉本さんは、2016年5月にキッチンカー「オッタントットダイナー(88DINER)」のオーナーシェフとして念願の独立を果たしました。
杉本
料理人なら誰もが、いつか自分のお店を持つことを胸に秘めているでしょう。私もその夢を早く実現したいと思っていた一人です。そんな日々の中、ネットの記事で移動販売の業態を知りました。お店の開業には莫大な資金を必要としますが、車をお店として営業する移動販売であれば資金は少なくてすむ。これならイケると感じたのです。
移動販売のセミナーにも参加。「移動販売は“動ける飲食店”。食べてもらいたいお客様のもとに、自分から移動し、キッチン付きの車内で調理する姿を見てもらいながら、できたての料理をふるまえる」とレストラン勤めの私の頭にはなかった強みを知り、移動販売にますます引き込まれていきました。
準備は移動販売に不可欠な車の調達から開始。軽ワゴン車を探して改造することにしました。
杉本
といっても、私は車に詳しくないため、前述したセミナーの主催者にキッチンカー専門の業者を紹介してもらい、車の調達から改造までをお願いしました。車を見つけるのに2~3か月、改造に1か月くらいを要して完成。改造については、コック時代にギックリ腰をやった関係から車内で立って調理ができるよう天井を高くすること、お客様と対面販売するため窓を多くして開放的な空間に見せるなど、工夫しました。かかったお金はトータルで230万円くらい。車の代金に約100万円、改造費に約130万円です。

移動キッチンカー「オッタントットダイナー号」。オッタントットはイタリア語で数字の88を意味。
米の漢字を分解すると八十八に。米作り同様、丁寧に仕込んだ料理を食べてもらいたい思いが込められている

対面販売しやすく、お客様が調理風景を見られるよう、窓を大きめにとった

キッチンカーでふるまうのは「創作イタリアンご飯」。ランチ難民の多い、東京のオフィス街に出店しました。
杉本
イタリアンといえば普通はパスタを連想しますよね。でもオフィス街のお客様の場合、会社に持って帰ってから食べることになるため、パスタだと伸びてしまう。ご飯なら多少冷めても味を保てると判断して考案しました。最初は「イタリアンご飯?何それ?」という感じでしたが、一度味わった多くのお客様がリピーターになってくれています。

赤ワインとデミグラスソース、6種のスパイスを使用した濃厚なミートソースがご飯にたっぷりのった「黒ミートソースご飯」

「チキンとほうれん草のクリームドリアランチ」は、キッチンカーでは珍しい、車内でこんがり炙る熱々ドリア

開業前はレストランの仕事が忙しく、出店場所を探すのに多くの時間を割けませんでした。結果、開業時に決まっていたのは、東京・大手町のキッチンカーが集まる場所など3か所のみ。ただ、いざ営業を始めたら、自然と増えていきました。移動販売をやっている人たちは仲間意識が強く、何台も集まって商売するのをよしとします。そのため、どこの出店先でも横のつながりを作りやすく、「こっちでもやったら」と別の出店場所を紹介してもらえて増えていったのです。
現在、東京都内のオフィス街中心に、平日は曜日ごと違う場所を確保し、ランチタイムに営業しています。土日は地元多摩の科学館や、仲間に紹介されたお祭りなどのイベントに出店。週6日フル稼働できるようになり、月の売上げは開業半年で65万円に達しています。

大手町川端フードガーデン(写真)をはじめ、都内オフィス街を中心に出店

やりがいを感じる毎日。移動販売を軸に、新たな夢がいろいろと膨らんでいます。
杉本
移動販売のいいところは、お客様との距離が近いこと。直接ふれあって「おいしい」と言ってもらえたり、目の前で喜ぶ姿を見られるのが何よりうれしいです。
今後は新たな取り組みとして、農家さんとコラボした移動料理教室をやりたいと思っています。農家さんが育てた野菜の収穫体験をし、その野菜を使った料理をキッチンカーで実演して食べてもらうというもの。参加者には収穫と料理、2つの楽しみがあり、農家さんにとっては野菜の美味しさをアピールできますよね。あと、妻が自宅で料理教室を開いているので、その場所を利用してイタリアンご飯やイタリアン惣菜の販売も計画しています。
ローン借入額は300万円。多摩信用金庫の「たましん創業支援特別融資『ブルーム』」を選びました。
杉本
最初は日本政策金融公庫に話を聞きに行きました。政府系で金利は比較的低く、同じ創業支援向けのローンもあったのですが、最終的には地元にある多摩信用金庫で借りることにしました。
理由は大きく2つ。ひとつは、「開業後のことを考えて」です。地元の金融機関なら開業後、事業運用や経営についていろいろとアドバイスを仰げます。実際そういった支援制度が設けられており、長い付き合いができると思ったのです。かたや日本政策金融公庫の場合は、一回きりという感が否めませんでした。また開業後、事業を拡大してさらにローンを借り入れる場合にも、地元の金融機関のほうが相談しやすいと思いました。
もうひとつは、「融資を受けるまでの期間」の問題。日本政策金融公庫は約2か月と審査に時間がかかる一方、多摩信用金庫は1か月未満という速さでした。先にキッチンカーのお金を自前で支払ってしまった関係上、フトコロが寂しくなり、できるだけ早く事業資金を得て踏み出したかったのが本音ですけどね(笑)。
ローンの審査はスムーズに進みました。多摩信用金庫の担当者が好意的で、審査に必要な書類である事業計画書の書き方など丁寧にアドバイスしてくれたからだと思います。借入額は運転資金を含めた事業資金300万円。前述したようにキッチンカーのお金は支払い済みだったため、車の代金は設備資金としての融資が受けられず、運転資金として調整してもらえたのもよかったです。
最後に、移動販売を始めたい人へのメッセージを聞きました。
杉本
移動販売は楽しくてやりがいを感じられる仕事です。ただ、思っている以上に事業を軌道に乗せるまでに時間がかかります。その期間の運転資金を計算に入れておくべきでしょう。また、参入障壁の低い商売だからといって甘く見るのではなく、事前の準備をしっかりしておくことも大切です。私自身、開業前にさまざまな起業セミナーに顔を出したことが、出店場所の確保やその後の拡大につながりました。
ライターからのコメント。

信用金庫は地域に根差した金融機関であり、地元の事業を応援することがメイン業務の一つ。杉本さんが利用された多摩信用金庫の創業支援ローンも、そういった特色を持っています。移動販売に限らず、地元で何か商売する際のローンは、開業前だけでなく開業後も末永く支援してもらえる信用金庫に頼るのも、有力な選択肢といえるでしょう。

※取材にご協力いただいた杉本さんの「オッタントットダイナー(88DINER)」のホームページは http://www.88diner.com/

文/百瀬康司、企画/カデナクリエイト、編集/イー・ローン