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第748回

中小企業の事業承継にはお金の問題も?

小さな会社を経営しています。まだまだ元気なつもりですが、後継者不在や相続で苦労している知り合いもおり、会社を息子に譲る準備をしておきたいと考えています。 特にお金の面で気を付けることがあれば教えてください。(Hさん 57歳 会社経営)
ご子息への円滑な事業承継のためには、まずは自社株式の承継方法とそれにかかる資金の準備が重要です。 基本的な考え方や利用できる制度を確認し、計画的に準備を進めましょう。

自社株式の主な承継方法

中小企業経営者の高齢化が進む一方で、後継者の確保が難しくなっていることなどから、多くの会社で事業承継の準備が先延ばしされています。 十分な事業承継対策を取っておかなければ、相続時に問題が生じたり、会社の業績が悪化したりするリスクが高まります。 事業承継の際に活用できる制度や注意点を確認し、スムーズな事業承継のための準備をしておくことが大切です。

事業承継対策を進める上でまず考えなければならないのが、自社株式の承継です。 経営の意思決定を円滑に行うためにも、後継者に3分の2以上の株式を取得させる必要があります。 後継者に自社株式を取得させる主な方法には、遺言・生前贈与・売買があります。それぞれの方法の特徴を見てみましょう。

遺言による承継は、現経営者が単独で準備することができる点がメリットです。 しかし、内容に不備があれば遺言そのものが無効になってしまう恐れがあります。 また、後継者以外の相続人の遺留分への配慮や相続税の納税資金の準備が必要です。 死亡の時期は予測することができないため、計画的に経営権を引き継ぐという面においては不確実性があります。

生前贈与は、贈与契約により後継者に自社株式を取得させる方法です。 撤回や不備による無効の可能性が低く、現経営者の存命中に実行できる点がメリットです。 一方で、遺言による承継と同様に、遺留分への配慮や贈与税の納税資金の準備が必要です。

売買による承継の一番のメリットは、後継者が買い取った自社株式が遺留分の対象とならない点です。しかしそのためには適正な時価によって買い取る必要があります。 適正な時価よりも低い価格で売買した場合、後継者に贈与税が課される可能性があります。 したがって、後継者は十分な買い取り資金を準備する必要があります。また、売買価格によっては、現経営者に譲渡所得税が課される場合もあります。

バランスとタイミングを考えた選択を

自社株式の承継は、いずれの方法でも多額の資金が必要になり、事業承継が先延ばしされる一因となっています。 そこで、円滑な事業承継を支援するために、一定の要件を満たせば事業承継の際の相続税・贈与税について納税が猶予される特例があります。 ただし、事前に経済産業大臣の認定を受ける必要があり、また納税猶予を続けるためにはその後5年間は8割以上の雇用維持をしなければならないなどの要件があります。 要件が満たせなくなった場合には、相続税・贈与税の全額に加えて利子税も納めなければならないため、特例を利用するかどうかは慎重に検討すべきです。

この特例を使わなくても、暦年贈与で年間110万円までの贈与は非課税ですし、年間310万円までは最低税率ですみます。 また、相続時精算課税制度を使えば2,500万円までの贈与には贈与税が課されません。 それぞれのメリットとデメリットを理解し、バランスやタイミングをよく考えて制度の活用を検討しましょう。

円滑な事業承継のための資金調達

資金調達が必要な場合には、融資を受けることも検討すべきです。 日本政策金融公庫および沖縄振興開発金融公庫では、後継者に低金利で融資を行っています。 また、事業承継にかかわる資金を金融機関から借り入れる場合に、信用保証協会の通常の保証とは別枠で保証が受けられる制度もあります。 事業承継の手続き等で事業が滞り一時的に売上が低下する場合には、スピード重視のノンバンクによる融資を利用した方がいい場合もあるでしょう。

事業承継は単に資産や経営権を移転するだけではなく、技術やノウハウ、人脈や信用など様々なものを引き継ぐ必要があり、時間もかかります。 できるだけ早い段階から計画的に準備を進めましょう。

【参考リンク】

私が書きました

宮野 真弓 (みやの まゆみ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))、一級ファイナンシャル・プランニング技能士。

大学在学中にFP資格を取得。証券会社、銀行、独立系FP会社を経て独立。忙しくても無理なく実践できるメリハリ家計を提案するママFP。 ライフプラン全般の相談業務や家計簿診断、ライフプランセミナー講師、FP資格取得講座の講師として活動中。 学校での金銭教育にも注力している。

※執筆日:2017年10月23日