第799回
約40年ぶりの大改正!相続はどう変わる?
- 故郷で暮らす両親も高齢になり、相続についても人ごとではなくなってきました。 相続の法律が変わるという記事を見ましたが、何が変わるのですか。(兵庫県 K)
- 残された配偶者の生活を保護するための方策や、自筆証書遺言の方式を緩和するなどの項目が盛り込まれています。
平成30年7月、相続に関する法律の改正が成立
平成30年7月、財産や家族(親族や相続)に関する法を定めた民法の改正が成立しました。 相続分野に関する改正は1980年以来、約40年ぶりの大きな改正とのことです。 社会の高齢化や「争族」の防止に対応した内容で、6つの分野の改正となっています(→表)。
これらは、「公布の日(平成30年7月13日)から1年を超えない範囲内において政令で定める日」までに施行されることになっていますが、 「自筆証書遺言の方式緩和」は2019年1月13日から、「配偶者居住権の新設」「自筆証書遺言の保管」は「公布の日から2年を超えない範囲(2020年7月)内において制令で定める日」までに施行されるとされています。
1.配偶者の居住権を保護するための方策 | 配偶者短期居住権の新設 |
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配偶者居住権の新設 | |
2.遺産分割等に関する見直し | 一定の自宅を遺産分割の対象外に |
預貯金等の仮払い制度の創設 | |
遺産分割前に財産を処分した場合の措置 | |
3.遺言制度に関する見直し | 自筆証書遺言の方式緩和 |
遺言執行者の権限の明確化 | |
公的機関(法務局)における自筆証書遺言の保管制度の創設 | |
4.遺留分制度に関する見直し | 遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化する |
5.相続の効力等に関する見直し | 法定相続分を超える部分については登記等の対抗要件を具備しなければ、債務者・第三者に対抗することができないものとする |
6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策 | 相続人以外の被相続人の親族が療養介護等を行った場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる |
参考:法務省民事局 平成30年7月「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律 法務局における遺言書の保険等に関する法律」
相続法の改正で、配偶者の権利が拡大
今回の改正のポイントの第一は、「配偶者の権利を拡大したこと」です。
「配偶者短期居住権」」の新設により、相続時に被相続人(亡くなった人)の自宅に住んでいた配偶者は、遺産分割が済むまでの間、無償で自宅に住むことができるようになります。 また、「配偶者居住権」の新設により配偶者は自宅に、終身または一定期間、住み続けられる権利を得ることができるようになります。 これまでは、遺産として分けられる財産が少ない場合、遺産分割により自宅を売却せざるを得ず、配偶者が住む家を失う場合がありました。 しかし、今回の法改正で、遺産分割における選択肢の一つとして、被相続人の遺言等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。
また、結婚してから20年以上経つ夫婦間で、自宅を贈与または遺贈していた場合には、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようにされます。
自筆証書遺言が、法務局での保管も可能に
身近な相続対策として「遺言」がありますが、その自筆証書遺言についての決まりが変わります。 「自筆証書遺言」は全文を自筆で書くことが必要で、パソコンやワープロで記載したものは無効とされていましたが、高齢者の方などがすべてを自筆で書くのは難しいものがあります。 そこで、財産目録はパソコン等で作成したものを添付することも認められるようになります。 また、自筆証書遺言は、相続が発生した際、保管場所がわからなかったり、第三者が遺言書を改ざんしたりするなどのトラブルが起こりがちなので、法務局での保管制度も始まることとなっています。
このように、今回の相続法の改正では、高齢化の進む社会に合わせた、どのご家庭でも相続の際に気になるような実用的な面での改正点も多くあります。 詳しくは、法務局のホームページなどでも説明されているので、参考にされるとよいでしょう。
また、「相続」は頻繁に起こるものではありませんが、誰にでも起こり得ることです。 今回の改正点だけでなく、相続の手続や相続税などの情報を集め、実際に相続が発生した際に慌てないようにしたいものです。 だれがどの財産を相続するのか、どう分けるのか、なども、相続が発生する前に家族で話し合っておかれるとよいでしょう。