第1032回

地震で自宅が損害を受けたら、住宅ローンはどうなる?

住宅購入を考えています。住宅ローンについても検討するうちに、ローン返済中に地震などで損害を受けたらどうなるかが心配になってきました。地震による損害で自宅に住めなくなっても、住宅ローン返済は続くのでしょうか。(静岡県 Kさん)
地震などで自宅に損害があっても、住宅ローンの返済義務はなくなりません。災害に遭った場合に受け取ることができる保険金や利用可能な制度について確認しておきましょう。

地震で自宅が損害を受けても、住宅ローン返済は残る

地震で自宅が損害を受けたとしても、原則として住宅ローンの返済義務はなくなりません。損害の程度によっては、住宅ローンの返済を続けつつ、地震による損害の修復や建て替え費用なども必要になる可能性があります。

災害が起こると、「数十年に一度」「100年に一度」というフレーズをよく耳にしますが、災害に遭う確率はゼロではなく、だれでも、どこでも被災者になる可能性があるといえます。住宅ローンについても、事前の備えと、地震による損害を受けた場合の対処方法について確認しておきましょう。

地震に備えて、補償を充実

地震保険の補償金額は、最大で火災保険金額の50%

住宅の損害に備える保険としては、まず火災保険を思い浮かべますが、地震・噴火・津波による損害は火災保険の補償対象となりません。

地震・噴火・津波による損害を補償対象とするのは「地震保険」です。地震保険は単独では加入できず、火災保険と併せて加入します。しかし、地震保険の補償金額は、主契約である火災保険の保険金額の30~50%の範囲かつ居住用建物の場合は上限が5,000万円までとされているので、地震による損害を地震保険の保険金だけでカバーすることは困難です。

とはいえ、地震保険に加入していなければ、保険金を受け取ることはできません。損害保険料率算出機構によると、2021年度の地震保険の世帯加入率(全世帯に対してどの程度の世帯が地震保険を契約しているか計算したもの)は34.6%に留まります※が、地震による損害への備えとして、まずは地震保険の利用を検討されるべきでしょう。

※この統計は、居住用建物および家財を対象として損害保険会社が取り扱っている「地震保険」のみの数値であり、各種共済については含みません。

少額短期保険で地震への備えを上乗せ

「少額かつ短期」という条件を満たして一定金額までを補償する「少額短期保険」には、地震による損害の補償を目的としたものがあります。こちらは火災保険とセットにする必要はなく、単独でも加入できますが、保険金額が限られるので、「地震保険の代わり」としては保険金額が少なめです。「地震保険の上乗せ」として利用を検討されるとよいでしょう。

災害時にローン返済が免除される住宅ローン(特約)

地震などの自然災害時に、ローン返済の一部が免除される(損害に応じた一定回数の返済が免除される)特約を付加した住宅ローンもあります。商品によって異なりますが、通常の住宅ローンよりも金利や手数料などの負担が大きい場合があるため、地震に遭った際に軽減される返済負担額を確認し、その金額がコストに見合ったものなのかをよく検討して利用するようにしましょう。

地震で損害を被ったときには

前述したように、地震で損害を被ったとしても、原則として住宅ローン負担はなくなりません。地震保険等で備えていても、家屋の修復や生活再建のための費用がかさみ、損害をカバーするのは困難です。災害に対する公的な支援の活用や、ローン返済方法の見直し、ローン返済が困難になった場合の対処法についても確認しておきましょう。

災害後の公的支援

災害による被害の規模・程度によって、公的支援の対象となるか、どのくらいの支援が適用されるのかは異なります。大規模な被害の場合、「被災者生活再建支援制度」や「災害救助法」による支援が適用される可能性もあります。さらに、都道府県や市町村などの自治体独自の支援が行われることもあるので、自然災害による損害があった場合には、まずは、自治体の被害支援の窓口等で情報収集することが大切です。

表1 公的支援制度の例
制度 概要
被災者生活支援制度 災害により住宅が全壊するなど、生活基盤に著しい被害を受けた世帯に対して支援金(最大300万円)が支給される
住宅の応急修理(災害救助法) 災害により住宅が半壊し、自ら修理する資力のない世帯に対して、被災した住宅の居室、台所、トイレ等日常生活に必要な最小限度の部分を応急的に修理するもの

内閣府 防災情報のページ 公的支援制度について より抜粋

ローン返済が困難になった場合は

地震等による損害によって、住宅ローン返済が困難になった場合には、まず、借入先の金融機関窓口で相談します。病気や離職等の個人的な事情で返済が困難になった場合でも、返済期間の延長や一定期間の返済金額の減額などで対応してもらうことが可能ですが、地震などの被害を受けた場合は、返済負担を減らすためのより手厚い対応が取られることもあります。

たとえば、【フラット35】の場合、地震、津波、噴火、暴風雨又は洪水により被災された方への返済方法変更には、返済金の払込みの据置(り災による家計収支の悪化の程度に応じて、1年~3年)、据置期間中の金利引下げ(0.5%減。ただし、引下げ後の金利が0%を下回る場合には、0.01%までの引下げ)、返済期間の延長(り災による家計収支の悪化の程度に応じて、1年~3年)といった対応が取られます。

ローン返済ができなくなった場合は

地震などによる損害を受けてローン返済ができなくなった場合には、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の利用を借入先金融機関に申し出て、専門家の手を借りて債務整理(借金の減額や免除を求める手続き)を進めることができます。

ローンが返済できなくなり、法的手続き(自己破産など)により債務整理を行った場合には、その事実が個人信用情報登録期間に登録されることにより、あらたな生活を始めるための借り入れができない問題が生じる可能性があります。

しかし、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」による債務整理の場合は、その事実は個人信用情報として登録されないため、新たな借り入れに影響しません。また国の補助により、弁護士等の登録専門家の無料の支援を受けることができ、財産の一部を手元に残すこともできます(被災状況や生活状況などの個別事情により異なる)。

このガイドラインが適用されるのは、「自然災害の影響によって、住宅ローンや事業性ローン等の既往債務を弁済することができないまたは近い将来弁済できないことが確実と見込まれ、破産手続等の法的倒産手続の要件に該当するなどの一定の要件を満たした個人の債務者」*です。

* 一般社団法人 東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関HP参照

地震などの自然災害によって自宅が損害を受けても、住宅ローンの返済義務は原則として残り、ローンの返済をしつつ、生活を再建していくことになります。

地震保険の備えも大切ですが、災害の規模や損害の大きさによってはカバーしきれないことも想定されます。万一の備えとして、住宅ローン返済が困難になった場合の対処方法や公的支援制度を確認しておきたいですね。

【参考リンク】

私が書きました

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※執筆日:2023年06月20日